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「死ぬ。死ぬ。マジで死ぬ」 福島1F勤務、ひ孫請け作業員の“悲哀”

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#11

2020/11/08

source : 文春文庫

genre : ライフ, 社会, 読書, 医療, ヘルス

note

 法令違反と言っても死ぬよりはいい。不二代建設での死亡事故は、データを見る限り、放射能とは無関係で、新規参入組だったので、かたくなにマスクを外さなかったために起きた事故である可能性は高い。10月6日には建設会社の下請けとして汚染水貯蔵タンクの設置作業に従事していた50代の作業員が死亡した。通算46日間の勤務で、通算外部被曝量は2・02ミリシーベルト。その後、発表された死因は後腹膜膿瘍(のうよう)による敗血性ショックで、この事例も放射能との因果関係があるとは考えにくい。

 8月30日、40代の男性作業員の死亡が発表された際は、死因が急性白血病だったために、被曝による犠牲者ではないかと疑われた。東電の発表によれば、8月上旬から1週間の勤務で、被曝線量は0・5ミリ。事前の健康診断でも異常はなかったという。専門医の話によると、「この被曝量で白血病を発症することは100パーセントに近い確率でない」らしく、健康診断後に発症し、突然急死するケースも珍しくないそうだ。1Fの勤務に限って言えば無関係だろう。

作業を担当する人間が使えない瞬間冷却剤

「歩けるかい?」

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「ちょっと無理です」

 同僚に抱えられ、ゆっくりとプロセス主建屋の中に戻った。バンドソーはHさんという上会社の社員が、がらがらと引きずりながら運んでくれた。

〈すげぇ重かったんだよなぁ。抱えなくてよかったのか……〉

 ボーッとした頭でその様子をみていると、瞬間冷却剤を首の付け根に当ててくれた。プロセス主建屋の裏口、線量のもっとも高い場所に冷凍庫が置いてあり、そこに無数のアイスノンや凍らせたペットボトルが入っているのだ。これまで瞬間冷却剤は作業員が自腹で購入し、現場に持ち込んでいた。シェルターの冷凍庫に保管されていたアイスノンは汚染を防ぐためタイベックの下に装着しなければならないが、現場に、そのためのベストは装備されていなかった。私は保冷剤を5つ装着できるタイプを薬局で購入し、叩くだけで急速冷却される保冷剤を20個ほど持参、仲間に使ってもらうよう差し入れていた。 

Jヴィレッジのタイベック(写真:著者提供)

 死亡者が出て、作業員の熱中症が多発して初めて、プラントメーカーはこうした原始的かつ実効性のある装備を現場に配備した。が、普段、こうした冷却剤は放管や安全(係)と呼ばれる人間や、現場監督が実質、占有している。作業を担当する人間は、冷却剤の存在すら忘れて作業に没頭しており、それを使う暇すらないし、いざ使おうと思っても、すでに冷凍庫は空なのだ。辛そうな作業員を探し、気を利かせて配ればいいのに、放管や安全は決して自分では動かない。おそらくこれが原発村のルールなのだろう。

 遮蔽板の上に腰掛け、放管の姿が見えないのを確認し、右手でアイスノンを首に当てながら、左手でマスクをずらした。冷たい外気を吸って4、5分、私はなんとか復活した。