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「死ぬ。死ぬ。マジで死ぬ」 福島1F勤務、ひ孫請け作業員の“悲哀”

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#11

2020/11/08

source : 文春文庫

genre : ライフ, 社会, 読書, 医療, ヘルス

note

 熱中症は自覚症状がなく、いきなりぶっ倒れる。手足が痙攣(けいれん)するような段階まで来たら、死はすぐそこだ。涼しい場所での休憩や水分補給が難しい以上、個人の自己申告を尊重するしか有効な防止策はない。辛いときは我慢せず、辛いと申告し、シェルターに戻らねばならない。

 が、現場が一丸となって作業している中、自分だけが離脱する罪悪感はかなりのものだ。1Fの作業員には、日本のピンチを救うという使命感があるからなおさらである。

作業員のヒエラルキー

 熱中症には、作業員のポジションも大きく影響する。下請け、孫請け、ひ孫請け……さらには7次、8次と続くヒエラルキーの中、ピラミッドの底辺に向かうほど現場での発言力は弱くなり、それに比例して無自覚にSOSをためらってしまうのだ。不満があってもたいていはそれを飲み込むしかない。

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支給された食料(写真:著者提供)

 同僚のFさんは、恩人のサポートのために1F入りした電気屋だった。50代で腰に持病があり、そのせいで締結(配管の接続)の実習を休んだことがある。

「辞めさせるか? 田舎に帰ってもらってもいいっぺ」

 無断欠勤ではないのに、所長は現場でそう息巻いた。Fさんはクールな二枚目で、「さすらいの遊び人」を自称していた。が、腕は超一流で、復旧作業の戦力としては申し分ない。

「俺は直接言われなかったけどね。そんなこと言われたらすぐ帰るよ」

 かといって、Fさんも恩人との関係があり、自分勝手な行動はとれない。腰にたくさんのサポーターを巻きながら、黙々と作業をこなす。他の電気屋が数回かけて溶接する箇所を、Fさんはすべて一発で決めていた。

 我が班の場合、発電機を運ぶような肉体的に辛い、もしくは時間のかかる作業は、下請け、孫請け作業員の担当だった。また安全講習における面談などでも、上会社の所長や専務たちは真っ先に面談を済ませ、自宅へと帰って行く。会場で何時間も待機させられるのは、私のような孫請け、ひ孫請けの作業員たちだ。

 オールジャパンにはそぐわない作業員格差―それでも下請け作業員が不満を口にすることはない。原発を生活の糧としていない私のような作業員ならともかく、5次請け、6次請け、7次請けの作業員にとっての恐怖は、仕事を失うことだからだ。

「わしらみたいな人間、正社員でもあるまいし、ここでがんばらないと次がない。いつまで働けるか分からんけど、辛いなんて口が裂けても言えんばい。倒れたなら不可抗力で、限界までがんばったと評価されるが、途中で逃げ出しては根性のないヤツと思われる」(九州から出稼ぎに来ていた6次請けの作業員)

 誰もが気軽に「もう駄目です」とギブアップできる雰囲気を作らない限り、熱中症はなくならない。