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「死ぬ。死ぬ。マジで死ぬ」 福島1F勤務、ひ孫請け作業員の“悲哀”

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#11

2020/11/08

source : 文春文庫

genre : ライフ, 社会, 読書, 医療, ヘルス

note

 海外のものはネジを締めるにしても雑なんです。耐圧試験もやっていないからドンと流した瞬間にバーッと漏れた。どっから漏れたっていったら継ぎ手がちゃんと締まってなかった。日本だったら接合部から漏れがないようシールテープを巻くんですけど、そのまま締めてあるだけ、とか。あれだけの高いお金を払って、電力さんどうしたの、ってのはありますね。手直しに行った作業員だってそう思ってるはず。東芝や日立製ならこんな事態は起こらなかった。なぜ自分たちが手直ししなきゃならないのか……」(アレバの作業を手伝った30代の作業員)

 とはいえ日本側の作業がパーフェクトだったわけではない。そういったクレームはアレバやキュリオンの技術者からも出されていた。配管の中にゴミが入っていた、傷ついた接合部分をそのまま締結した、などだ。個人的には、言いがかりに近いと感じる。酷暑の中、重装備で作業しているのだから、あれだけの遅れで済めば上々だったと思う。

バス車内の様子(写真:著者提供)

個人的見解では、外国人技師の参入は大きなプラス

 作業遅延の理由の一つに、助っ人外国人との文化の違いがあったことも事実である。あるとき、日本人作業員の遅延により、AO弁という部品の開閉テストが延期されたことがあった。日本人ならそのまま現場に待機したろうが、アメリカ人は帰った。

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「いわき市で休んでます。いつでも電話下さい」

 が、作業可能な環境になってもいっこうに携帯電話が通じない。こうしたロスは、外国人技術者のサポートをしていた作業員にとっていつものことだったという。

「俺たちにはオウ・ノウしか言わない。なにを訊いても『私たちの指示通りやればいい』の一点張りで、食事や休憩の時間も長いんでイライラする」(前出の作業員)

 その国の慣習に従うという美徳は、外国人技師にはない。起こるべくして起きた遅延といえる。

 専門家の中にも、「汚染水処理はすべて日本の技術で可能だ」という声があった。巨費を投入した米仏の装置がトラブル続きで、バックアップ装置のはずだったサリーが主役となった事実をみれば、外国製品の導入は失敗だったようにもみえる。

サリー内部の様子(写真:著者提供)

 が、個人的見解で言えば、外国人技師の参入は大きなプラスになったと感じている。現場はきわめて日本的な村社会の構造となっており、業者間の癒着が情報を隠蔽しているからだ。その壁をぶちこわすのは簡単ではない。外国人が入ってくれたおかげで、村社会に存在するオメルタ―マフィア的沈黙の掟は、ようやくほころび始めた。外国勢という異分子が悪役となることで協力企業の不満が爆発し、情報の防御壁が壊れたのである。これまでのように仲間内での作業なら、内情を知ることは難しかったろう。

ヤクザと原発福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売

「死ぬ。死ぬ。マジで死ぬ」 福島1F勤務、ひ孫請け作業員の“悲哀”

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