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無理をせずうまくサボる

 無謀の結果、自身の限界を知った私は、翌日から走るのをやめた。重量物を運ぶ際には、牛のようにゆっくり歩くようにした。走らなければならないときは6割程度のスピードに抑える。無理は禁物。10メートルの全力ダッシュが命取りになる。毎日のように熱中症で作業員が倒れた。なんとかシェルターにたどり着き、部屋の隅でぐったりしている作業員を見かけるのは日常的な光景だった。

シェルターで支給される食料(写真:著者提供)

 手抜き―コツを覚えたせいで、雨の中の作業もぶっ倒れずに済んだ。普段の装備の上にアノラックと呼ばれるカッパを着込むと、通気性ゼロのうえ湿気が多いので熱中症の危険が倍加する。こうした際、現場作業に慣れている正社員たちは、けっして無理をせず、うまくサボっていた。皮肉ではない。普段の半分しか動いてはならないのだから、これが正しい姿である。

 ただ正社員の中にも、責任感の強い人間はいる。工程表通りに作業を進めたい……私の上会社にいたAさんは、俗に言うフクシマ50であり、現場の頼れる先輩だった。彼のように責任感の強い人間にとって、雨は大敵だ。

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 5、6号機近くの作業場でプレハブの物置を撤収し、敷地内にあるIHI協力会社のビル前に移設したときのことである。アノラックを着込んだ作業員はみな、自分の身を守るため、ゆっくり無理をせずに作業をした。当然作業は遅延する。遅れをカバーしようと躍起になったAさんはあちこち走り回り、突然地面にひっくり返った。雨具と全面マスクを外し、肩でハァハァ息をする。雨の日だけあって外は涼しく、数分の休憩で復活したが、その日の作業は打ち切られた。

 Aさんのようなベテラン作業員さえ倒れる姿を見て、数日後、熱中症に関する記事を婉曲に「週刊ポスト」に書いた。発売日の翌日、朝のミーティングで、東芝の放管および、IHIの現場監督から自分が書いた記事そのままの内容―「熱中症は自己申告が頼りなので、みなさん、辛いときには我慢しないで下さい」と言われた時は、不謹慎ながら笑ってしまった。

 工程表通りに作業を進める。が、無理はするな。現場は完全に矛盾していた。

動物ボランティアの頼みの綱として宿に置かれた、被災地に残された犬や猫のエサ(写真:著者提供)

外国人技師への不満

 小便ならともかく、汚染水が漏れては洒落にならない。アレバとキュリオンという外国勢主体で設置が進められた汚染水処理施設は、あちこちで汚染水漏れを起こし、作業を中断させていた。

 なぜ作業が遅延したか? 複合的な要素が絡み合っており、一言では言えない。

「漏れていたのはたいてい、弁のところ。つまり装置自体に欠陥があったんですよ。日本の作業員は悪くない。もともと欠陥品ということだ。キュリオンとかアレバ―日本人は外国製の機械を触れないんです。ほんとは日本側で全部チェックすればいいんでしょうけど……あるんですよ。縄張りが。それぞれ自分たちの責任はこっからだ、ってなっちゃってるのが現実です。