A級八段。棋士にとって大きなステータスである。特に棋戦が少なかった昭和20~30年代は、文字通りA級に昇級するしか一流棋士への道がなかった。そして、タイトル戦に登場する棋士もA級在籍者が当然の時代だった。
現在は棋戦が増えたことに加えて、若手棋士の台頭も著しく、低段の棋士がタイトル戦に登場することも珍しくはない。
「A級順位戦は遠くて特別な場所という印象でした」
それでもやはり順位戦のA級リーグ在籍は、棋士にとって特別な地位だろう。今期は2人の新A級八段が誕生した。菅井竜也八段と斎藤慎太郎八段である。双方とも、すでにタイトル獲得の経験があり、新たな戦場での活躍も大いに期待される。
特に斎藤八段は開始から4連勝の好スタートを切り、初参加ながら4回戦が終了した現時点では唯一の無敗で、名人挑戦権へ一番近い所にいる。斎藤八段にA級順位戦について聞いてみた。
「積み重ねていかなければたどり着かない、遠くて特別な場所という印象でした。A級順位戦の対戦表や、行われている対局を観戦するのをいつも楽しみにしていました。特別な場所だからこそ、A級昇級を決めた際は喜びよりも気持ちが引き締まるところが大きかったです。そこで戦うことには責任や重みもあるだろうと想像できました」
A級は新参者に厳しい戦場と言われている。それはなぜか。「順位」戦だからである。
リーグを終えた結果、順位1枚の差でA級残留とB級1組降級の明暗を分けた例は枚挙にいとまがない。そして新参加の2名は、当たり前だがリーグ内順位が最下位とブービーでスタートになる。
挑戦権を争う場合もそうだ。2名が同星で並んだ場合は両者によるプレーオフだから問題ないが、3名以上が同星で並ぶと、まず下位者2人が戦い、その勝者が上位者と戦う。これを繰り返して最終的な勝者が名人への挑戦権を得る。
中原誠十六世名人も、初参加のA級では指し分けに
プレーオフにおいて、順位下位者のつらさが顕著だったのが2017~18年に戦われた第76期のA級順位戦だろう。前代未聞の6人プレーオフとなって争われた名人挑戦権は、A級初参加だった豊島将之がプレーオフで久保利明、佐藤康光、広瀬章人を破ったものの、4人目の羽生善治に敗れて、名人挑戦はお預けとなった。羽生はその後、稲葉陽も破って名人挑戦権を獲得している。
このプレーオフは例外中の例外としても、A級初参加で名人挑戦権を獲得した棋士は極めて少ない。18歳でA級八段となり「神武以来の天才」と呼ばれた加藤一二三九段も、A級1期目は負け越している。
また、史上初のA級全勝を達成して名人挑戦権を獲得、そして大山康晴十五世名人の長期政権に終止符を打ち「棋界の太陽」と呼ばれた中原誠十六世名人も、初参加のA級では指し分けに終わっている。
昭和の大棋士である升田幸三実力制第四代名人、大山十五世名人の両名にしても、初参加のA級では挑戦権獲得には至らなかった。それほどまでにA級の壁は厚かったのである。