テレビを例にとれば、かつては最新型の製品を開発すれば、大量生産・大量販売で大きな利益が得られました。消費者は「最新型なら多少値が張っても買う価値がある」と頻繁に買い替え、画面サイズはどんどん大きくなりました。
それが現在の消費者は、テレビそのものにそこまでこだわりません。ハードのコストはできるだけ抑え、AmazonプライムやNetflixの有料コンテンツにお金を払うほうがいいと考えます。映像を楽しむデバイスはテレビだけでなく、移動中にスマホやタブレット端末で観ることもできますからね。DXによって利益を生む産業が移ったわけです。
コロナショックで、この構造変化は間違いなく加速します。しかし、多くの日本企業の体質はまだ変わっていません。
昨日まで野球だったのに、今日はサッカー
――現状の産業構造が維持できないと分かっても、進むべき方向が見えない日本企業。何か打つ手はあるのでしょうか?
冨山 打つ手はあります。企業が生き残るために必要なものは、その劇的な環境変化に対応できる「変容力」です。
残念ながら、日本の大企業はここがもっとも弱かった。大企業だけでなく、社会のしくみや働く人たちの意識も、高度成長期の工業モデルに過剰適応したまま、30年も変わらずにきてしまったわけです。新卒一括採用、年功序列、終身雇用が基本的な構造の組織体は、変容力がめちゃくちゃ弱い。従業員がすべて入れ替わるのに40年かかるわけですから当然でしょう。
日本の大企業が強みとしているのは、大量生産・大量消費型の社会では通用する改善・改良のイノベーションです。これは、破壊的イノベーションによる「環境変化」にはまるで歯が立ちません。
その環境変化は、いわばゲームチェンジです。昨日まで野球で戦っていたのが、今日はサッカーで戦う。どれだけ打率が高いバッターでも、プロのサッカー選手を相手にいきなり試合するのは無理でしょう。あわててサッカーボールを蹴る特訓をはじめても、すぐに競技はラグビーになり、テニスに変化する。それぐらい劇的に変化する時代になっている。この環境変化に耐えられるのが、組織の変容力や柔軟性です。