お前の言う“病気”は気のせいだ
だから予想通り、父は「退学、転校などは一切認められない。お前の言う“病気”というのは気のせいだ」の一点張りで、何ら交渉の余地は無かったのである。
そして驚くべきことに二点目の、「精神科に行きたいから保険証を貸してくれ」という、かろうじて受け入れられそうな要求もまた完全に拒絶されたのだった。当時、私の父ははっきりこう言ったのである。
「仮にお前の言う“症状”があったとしてだ。精神科というのは○○○○病院である。そんなところに息子のお前が行くとなると、古谷家の家名に傷がつくではないか。だから保険証の使用は一切認めない。保険証の貸与も一切認めない。病院に行くことも、学校を転校することも一切認めない。お前は北海道大学に行く。お前に教育費という莫大(ばくだい)なカネをかけてきた投資を回収するためだ。お前が北大に行かなければ、なぜ我々が必死にお前を育ててきたのか。意味が無くなる。その“症状”というのは気のせいだから寝れば治るだろう」
という、驚くべき偏見と差別に満ちた放言で、私の一番と二番の要求はことごとく拒否されたのだ。そしてこれについては母も二重にも三重にも増して父と同見解を採用したのである。そうして私の母は「日蓮さまに平癒のお願いをしておくから、その症状はすぐに治る」などと断言して、それきりこの話はおしまい。完全に打ち切りであった。
最大の庇護者であるはずの両親からの偏見と無理解
これこそ教育虐待以外の何物でもない酷い仕打ちであり、はっきりいってこれはれっきとした犯罪である。具体的には刑法第218条「保護責任者遺棄罪」にあたる。保護責任者遺棄罪とは、保護を必要とする人間を助けなかった罪で、要するに保護責任のある者が助けを必要とする相手を何もせずに放置した場合の罪である。この点において、両親は完全に犯罪人である。
未成年者で、親の保険証が無ければ病院に行くことができない私は、ただ両親への募る敵愾心(てきがいしん)と憎悪を胸に秘めて何とかやり過ごす選択肢しか無かったのである。パニック障害への偏見と無理解は、他人だけから受けるものではない。本来「最大の庇護者(ひごしゃ)」であるはずの両親からも、起こりうるのである。