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「ウポポイをどう評価する?」日本で暮らす台湾原住民が見たアイヌ

「ウポポイをどう評価する?」日本で暮らす台湾原住民が見たアイヌ

2020/11/02

原住民に認められた権利とは……

──台湾政府の原住民への姿勢が変わったのは、李登輝政権下でこれまでの「山地同胞」という呼称が「原住民族」に改められたあたり(1994年)からでしょうか?

D:あと、2000年の総統選で民進党の陳水扁が当選したことが大きいです。陳水扁は選挙前に、原住民の自然主権の承認や原住民自治の推進などを掲げた「原住民と台湾新政府の新たなパートナーシップ」という構想を提唱したんです。当時、台湾人はみんな陳水扁は当選しないだろうと思っていたのですが……、幸運にも当選したので(笑)。

──2000年総統選は民進党が歴史的な政権交代を成し遂げた選挙でしたが、国民党候補者が連戦と宋楚瑜に分裂したことで、実はタナボタ的に辛勝した形です。当時、民進党はこの総統選に勝てないことを前提として理想主義的な原住民政策を掲げていたはずが、国民党側のオウンゴールで勝ってしまいました。

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D:結果的に、2005年に先住民の法的地位を保障する原住民族基本法が成立します。現在は自分の民族名を名乗れますし、小学校では週1回の母語教育(注:閩南系の場合は台湾語、客家系の場合は客家語)が義務付けられていて、立法院(国会)に原住民枠の6議席がある。1990年代末からは大学受験での原住民学生への加点処置もあります。もちろん、土地問題など現在でも解決したとは言えない部分もありますが。

同じ民進党の蔡英文政権下では、当選間もない2016年8月に原住民に対して「過去400年間の台湾の政権は土地の略奪などで先住民族の権利を侵害してきた」ことを謝罪する声明を発表。先住民族への公式謝罪はカナダやニュージーランドなどで前例があるが、非欧米圏では台湾が初。 ©getty

──いっぽう、日本でも2019年4月に成立したアイヌ新法で、アイヌが先住民として明記されました。ただ、アイヌに特別な権利は認めない点が、台湾の原住民族基本法との違いです。法の下の平等の観点から難しいという解釈みたいですね。加えて日本の場合、社会的弱者が他の国民よりも優遇されることを嫌う考えが根強いので、こうした世論の動向も背景にあるでしょう。

結婚差別は日本の方が多い?

D:原住民への優遇処置を強く嫌う意見は、台湾のケースではそれほど強くはないです。正直、教育の優遇については、現実を見て納得感を持たれている面もあります。原住民は言語面でのハンディがあることに加えて、伝統的な村における教育の環境は、大学受験の学力を伸ばすことに対しては必ずしも適性が高いわけではないですし。

──台湾原住民に対する結婚差別などは、現在でも存在しますか?

D:まだ存在しますが、昔よりもかなり減っていると感じます。むしろ私の場合、日本キリスト教団のアイヌ民族情報センターに携わっていることで、アイヌ差別の話のほうが身近なくらいです。和人の男性とアイヌの女性のカップルが結婚しようとしたら男性の親に反対されたので地元を離れてしまった、とか。数年前の話です。