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「主文。被告人を、死刑に処す」

「はい、じゃ、下がってください」

 小川裁判長は、被告人を取り囲んで注視していた刑務官たちに言った。その指示に、刑務官たちが所定の位置に下がって着席する。そのとき、刑務官のリーダー的存在のひとりが、もみくちゃになって乱れていた被告人のトレーナーの裾を引っ張って、服装を整えてやった。

 それを確認した裁判長は、法廷が落ち着くように一呼吸おいてから、静かに言った。

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「主文。被告人を、死刑に処す」

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 被告人は、左側正面に顔を背けるようにして、ぼうっと立ったまま動かなかった。

「この判決に不服のある場合は、今日を含めて15日以内に高等裁判所に申し出てください。はい、じゃ、終わりました」

 こうして裁判は終了したのだった。

棄却された控訴

 その後、被告人は控訴したものの、東京高裁の再三の請求にもかかわらず、控訴審から就いた弁護人が期日までに控訴趣意書を提出しなかったことから、そのまま控訴は棄却。一度も公判が開かれることなく、麻原彰晃の死刑が確定した。

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 だから、あれが教祖を見た最後となった。

 あからさまに死刑を怖がって、逃げようとする男の不様な姿を見たのも、あの時だけだった。

私が見た21の死刑判決 (文春新書)

青沼 陽一郎

文藝春秋

2009年7月20日 発売