新宿に1店だけ残っていた最後のキャバレーが、この2月に幕を閉じた。
コロナ感染が拡大するなか、都知事は会見で「いわゆる夜の街関連」という造語を口にした。このフレーズにメディアは飛びつき、ニュース番組はコロナ報道を流すとき、必ず「歌舞伎町一番街」のネオンを添えるようになった。
“悪の街・歌舞伎町”のイメージが瞬時に定着した。都内最後のキャバレーは、新宿区役所脇の通りを入り数分の風林会館6階にあった。歌舞伎町の中でも危険な匂いが漂うエリアだ。
客とホステスさん、百人は入れる大型店の最後の3日間を、番組は追った。
キャバレー通いを始めて四十年という常連客は、ここを「夢を売る場」だと語る。焼酎ビンを手にとり、「酒屋で2000円だけど、この店では1万とか2万円。それが夢になっている」。
40年のキャリアは伊達じゃない。「やっぱりお金は使わないと、戻ってこないから。あるものは使っちゃう。すると戻ってくる」だって。この日はヒイキの歌手、はるかサンのステージに。お客が次つぎ1万円札を渡す。すると最後に件の常連さんが万札を10枚開いて渡しに上がる。席に戻ると涙をオシボリで拭っていたな、オジさん。
ホステスさんも10年以上在籍している人が多い。お客もずっと、その女性だけを指名してきた年配者だ。
ローカル線が無くなるとき、鉄ちゃんが「ありがとお!」って叫ぶ。昔よく通った映画館の最後の日に来た客が「アタシの青春が失われた感じ」とシンミリ感傷に浸る。そういうオマエが月に一度来てたら潰れなかったのにね。
でも老舗キャバレーの最後に来た人たちは、人生の達人ばかり。変に感傷的になってないの。最後の日でも、晴れ晴れとしてる。
ビルの1階では、味のあるエレベーターボーイのオジさんが客を迎える。「こういう世界は57年間やってますから私は。15歳の時から」。すごいね。
「お客さんと会話するのが一番の楽しみ」と言った後「寂しい所で、過去に育ったから。人間を見たかったの、会話したかったの」。そしてエレベーターボーイって天職に巡りあえた。
昔、別の大型店で、年配の客とホステスさんが静かに並んで飲んでいた。別に手を握るでもなく、ポツリポツリ喋るだけ。女性に別の指名が入り、客は10分近く待った。「ごめんねぇ」。女性が戻ると、客は微かに笑ってまた静かに2人で話す。いい光景だったな。
いま大型キャバレーは、熊本に1軒だけ。そんな実状も知らず、国は3月「キャバレー等」でコロナ感染拡大が疑われると発表した。
雪深い地方から上京しても、人情を育まず、取り巻きと高級パンケーキを楽しむ人間を私は軽蔑する。
『ドキュメント72時間』
NHK総合 金 22:45~
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