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「お前、マスコミなんじゃねえのか?」 福島第1原発に潜入して身バレした記者の“顛末”

ヤクザと原発 福島第一潜入記』より#16

2020/11/22
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「書け書け。それが仕事なんだろ」

 Mさんという青森の親方は、とくに私をしごいてくれた。一生分「馬鹿野郎!」と𠮟られたが、この人の指導がなければ、もっと早くに解雇されていただろう。Mさんは私の話を聞き、大爆笑した。

「Mさんのことだけは実名で書きますね。死ぬほどしごかれて毎晩泣いたって」

「書け書け。それが仕事なんだろ」

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「使えない作業員ですいませんでした」

「当たり前だべ。道具の名前や使い方を覚えるのに最低8年かかんだ。仕方ねえべや」

 函館から来ていた電気屋の親方は、突然の告白にあっけにとられていた。素人からみても腕のいい職人で、無口でダンディな人である。特段、なにも言われなかった。ご苦労さんとだけ言ってくれた。

 もう1人の親方は、差し入れた焼酎を「そんなことなら受け取れない」と拒んだ。

「そんなこと書いたら駄目だっぺ。みんな生活かかってるんだ。電力や会社のことは絶対書くんじゃない。迷惑だ。それにそんなことをしたらこのへんを歩けなくなるぞ」

 親方の忠告により、原発の根源が理解できた。原発が都市部から離れた田舎に建設されるのは、万が一の事故の際、被害を最小限にとどめるためだけではない。地縁・血縁でがっちりと結ばれた村社会なら、情報を隠蔽するのが容易である。建設場所は、村八分が効力を発揮する田舎でなければならないのだ。

※写真はイメージ ©iStock.com

原発と暴力団は共同体の暗部で共生

 暴力団が原発をシノギに出来るのは、原発村が暴力団を含む地域共同体を丸吞みすることによって完成しているからだ。原発は村民同士が助け合い、かばい合い、見て見ぬふりという暗黙のルールによって矛盾を解消するシステムの上に成り立っている。不都合な事実を詰め込む社会の暗部が膨れあがるにつれ、昔からそこに巣くっていた暴力団は肥え太った。原発と暴力団は共同体の暗部で共生している。

 作業員たちも村の一員であることに変わりはない。村民意識は無自覚だが、外部の人間からは奇異に映るので目に付きやすい。マイルドにいえば地元意識で、他の地域からやってくる“寄せ集め”の出稼ぎたちとの間には、埋めようのない大きな溝が存在している。

「俺たちの同僚には被災者が多い。それにみんな地元の人たちに対して、申し訳ない気持ちを持っている。自分たちが悪いわけじゃないけど、やっぱり自分が働いてた原発でこんなことになったんだから。でも余所(よそ)から来る作業員はこんな気持ちなんて持ってない。ただ単に金稼ぎに来て、下手すりゃ観光気分だろ。ありがたいけど迷惑と思うときがある」(双葉郡に生まれ、自らも被災した協力企業幹部)