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親分は気乗りしない様子で話し始めた

「発電所関係……俺たちにとってはみんな同じだ」

 親分は気乗りしない様子で話し始めた。

「儲け方は……いろんなやり方がある。地域ごと、組織ごと、食い込む方法は違うだろう。組織のてっぺんたちは、自分の勢力範囲に原発が建設されるだけで、黙っていても金が入るようになっている。よくいう近隣対策費。名目なんてどうでもいい。それをしなきゃ、まともに話なんて進むわけない。

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 なにをするって? 決まってるだろ。邪魔するのさ。右翼を使ってもいいし、末端の若い衆を暴れさせてもいい。すんなり金は落ちるね。会社のほうでも織り込み済みの経費なんだろう。電力会社……知らないわけがないと思うが、この時代、さすがに直接の接点はない。窓口になるのは建設業者だ。俺たちにとっては幼なじみの同族だからな。

 これは原発だけの話じゃない。原発だけを分けて考えるからおかしなことになるんだ。火力でも水力でも原子力でも、やり方としちゃ変わらない。民間の工場が建設される場合でもそうだ。規模のでかいみかじめ料ってヤツだ。でも民間の工場はどんどん海外に進出している。大手メーカー、製造業のほとんどは、人件費の安い国に工場を新設するようになった。たった1つの例外が発電所だ。こればっかりは海外に作るわけにはいかねぇ」

※写真はイメージ ©iStock.com

 親分の証言通り、円高が進んで企業の海外進出が加速しても、発電所を国外に移転することは不可能だ。公共工事と並び、巨額の資金が投入される発電所建設という大プロジェクトを、暴力団が見逃すはずがない。

 事実、全国の暴排条例は、その大半が公共工事から暴力団に流れる資金を遮断する目的で作られている。電力関連事業との癒着は、これまで見逃されていた分野で、本格的な取り締まりが行われているとは言いにくい。とくに原子力発電のように、あちこちにタブーを抱え、潜在的な隠蔽体質を持った産業は、暴力団の生育条件としては申し分ない。発電所事業の中で、原発がもっとも棲みやすいエリアであることは間違いない。

ヤクザと原発福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売