文春オンライン

「お前、マスコミなんじゃねえのか?」 福島第1原発に潜入して身バレした記者の“顛末”

ヤクザと原発 福島第一潜入記』より#16

2020/11/22
note

「ヤクザと原発」の落とし前

 2011年10月過ぎ、4カ月ぶりに周辺取材を再開した。最初に当たったのは暴力団筋だ。1Fで復旧現場からヤクザにたどり着くことはできた。暴力団が原発に寄生している事実は、この目で確認した。が、シノギとしての原発について、さらに詳細な裏付けが欲しい。

 関東の某都市にある指定暴力団の事務所に足を運ぶのは久しぶりだった。

「ずいぶん痩せたじゃねぇか」

ADVERTISEMENT

 原発勤務で13キロ近く体重が落ちた私と正反対に、親分はでっぷりと肥えていた。

「福島で儲けたんですか?」

「それはねぇよ。あんな場所、危なくて行く気もしない」

 話が核心に近づくと、暴力団は平気で噓をつく。真偽のほどははっきりしない。表面上、どれだけ親しくても、暴力団取材は腹の読み合いである。ましてやシノギの話だ。マスコミに詳細を話しても、彼らにはデメリットしかない。

※写真はイメージ ©iStock.com

 はっきりしている事実はある。

 爆発直後、全国の暴力団がこぞって人集めをしていた割に、うやむやのまま話が立ち消えたケースは多かった。作業員に高額の危険手当が支給されるという噂を聞き付け、新規参入を企てた組織は、そのほとんどが失敗していた。ある指定暴力団は事故直後から交流のある土木建築会社に声をかけ、100人単位で作業員を集めながら1Fの現場に入れなかった。暴力団的にいえば落とし前を付けなければならない不始末だが、相手がカタギの会社なら泣き寝入りだろう。

 1Fの事故を棚からぼた餅と考えた時点で、現代暴力団としては時代遅れである。周到な根回しや偽装工作もなしに、代紋の力だけで儲け話にありつけた時代はとうに終焉している。それを裏付けるように、普段から人夫出しを太いシノギとしている組織はほとんど取材拒否で、ガードが堅かった。反社会的な方向であっても努力を怠り、一攫千金を狙うような組織は、現代暴力団として生き残れない。実際、作業員として働いていても、自分のバックにいるだろう暴力団についてぺらぺら喋る人間はいなかった。

 この親分が1Fの事故収束に絡んでいるかを突き止めるのが目的ではなかった。知りたいのは現代暴力団と原発の関係性だ。あくまで一般論で、と拝み倒した。

「もし(企業の)見直しが行われたら……責任もてるのか?」

 かれこれ10年以上の付き合いだが、こんな恫喝で釘を刺されるとは思ってもいなかった。