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日本学術会議の任命拒否問題は「反スガ」で解決するのか?

2020/11/13

source : 文藝春秋 digital

genre : ニュース, 社会, 政治

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「反アベ」を「反スガ」に切り替えるだけでは結果が見えている

 7年8ヶ月に及んだ長期政権は、「安倍」をリトマス試験紙にした。それは、肯定すれば保守、否定すればリベラルという、価値判断の基準になったのである。そしてこの構図のなかで、「反アベ」は敗北の連続だった。

 安倍政権は、あれだけ不祥事が指摘されたにもかかわらず、けっして倒れなかった。どんなに支持率が下がっても、北朝鮮の核・ミサイル実験など安全保障上の問題が起これば「小リセット」状態になり、国政選挙で勝利すれば「大リセット」状態となった。そしてこの政権は、異例の高支持率で引き際を華やかに飾った。

安倍晋三氏 ©文藝春秋

 この環境は、菅政権下でもまったく変わっていない。相変わらず国際情勢は不安定であり、野党は低支持率に喘ぎ、分裂したまま。であるならば、「反アベ」を「反スガ」に切り替えるだけの戦略は、おのずから結果が見えている。仮に菅政権が失策を重ねて倒れたとしても、あとを襲った政権は、やはり手強い存在であり続けるだろう。

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任命拒否の撤回を求める署名は、10日間で15万筆にも達しなかった

 それに加えて今回、アカデミズムが市民社会からかならずしも信頼されていなかったことも明らかになった。これはこれで頭の痛い問題である。

 任命拒否の撤回を求める署名は、10日間で15万筆にも達しなかった。もちろん、この手の署名に加わらないひとも多数いるとはいえ、大学教員の数が本務者だけで約19万人いることを考えれば、かなり少ないといわざるをえない。

©iStock.com

 政治は学問にたいして金は出すべきだが、口は出すべきではない。この意見は学問の発展を考えればまったく正しいけれども、それは市民社会からの信頼があってはじめて成り立つ。どんな状況でも、資金を出してもらって当然という態度では、ますます信頼を損ねるだけだろう。