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1回目の集中審理

 2007年6月26日、広島高等裁判所第302号法廷。中央の証言台の前に座った被告人に、もはや“少年”の面影はなかった。

 頭のてっぺんから無造作に伸びた張りのない髪は、襟足を覆うまでに垂れ流され、毛先が肩にあたって軽くカールしている。元来ががっしりした体格なのだろう、首や肩は太く、さらにその上に余分な肉が付いて、なで肩に前のめりの姿勢は、むしろ中年太りを連想させた。そして、入廷するなり急に思いついたように立ち止まって、ぎこちなく一礼して見せた。そこから窺えた男の顔。垂れ下がった前髪にかかって、まるで鋭い刃物で切り込みを入れたように細い真直ぐな目が見えた。エラの張った広い頬の白さが浮き立っていたこともあって、目の回りが幾分赤味がかって見える。

 この日から3日間の予定で、1回目の集中審理がはじまった。

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 被告人に犯行当日のことを、あらためて語らせることで、これまでと違った事件の真相を明らかにさせるという弁護側の法廷戦略だった。

 その声は、力のこもらない、鼻から抜けるような甲高いものだった。よほど緊張しているのか、声も小さく、最初の2~3問で裁判所の職員が証言台に置かれたマイクをわざわざ被告人に近付けたほどだった。

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 しかも、早口で、予め台本があって、それを丸暗記して段取りを追うようなしゃべり方だった。その上、弁護人が部屋の見取図を示して、そこに家具の位置や自分の立った場所、さらには被害者の位置関係まで図示できるかと問うと、その度に「はい、書けます」と即答して、何のためらいもなく書き込んでいくのだった。

 それだけでも、弁護人とかなり綿密な打合せを繰り返したことは、よくわかった。