文春オンライン

『犬がある日かわいい犬と出合った。そのまま「やっちゃった」』 光市母子殺害、犯人の“偽りの反省”

『私が見た21の死刑判決』より#9

2020/11/28

source : 文春新書

genre : エンタメ, 社会, 読書

note

死刑反対論者の弁護士

 証言台の右手には、この差し戻し控訴審から就いた21人からなる弁護団が2列に机を並べて座っている。

 その前列、裁判長寄りの場所に主任弁護人が座っていた。

 見慣れた顔だった。

ADVERTISEMENT

 死刑反対論者として知られ、俗にいう人権派弁護士。そして、麻原彰晃の主任弁護人を務めていた弁護士だった。

©iStock.com

 かねてより彼の持論はこうだ。現在の裁判所は、死刑を憲法違反と認めることはない。ならば、典型的な死刑が予想されるケースでは長く裁判を継続していく以外に方法がない。死刑の確定をより先に延ばすというのが、被告人の最大の弁護になる。そう公言しているのだ。

 それが、麻原裁判の長期化にもつながっていたし、この事件で差し戻しが決定した最高裁判所の弁論に臨んでも、欠席届を提出して、期日当日に出廷せずに、すっぽかしていた。そうして、やっぱり裁判を先送りさせていた。

 もっとも、過去においても、公判をすっぽかして、裁判を進めさせないことが繰り返しあった。

 それも、被告人の意思や利益よりも、弁護士の主義や都合を優先させる。麻原裁判でも、被告人が出廷しているにも拘らず、裁判をボイコットしたことがあったし、その麻原が、反対尋問をやめてくれ、意見陳述をさせてくれ、と懇願しても、これを無視した挙げ句に、裁判の長期化どころか、被告人の口を噤ませてしまったことは、既に語った通りだ。

 むしろ、裁判の先送りよりも、公判を混乱させるところに、この弁護士の本領があった。死刑反対論者どころか、もはや運動家だった。