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死者復活の儀式

 続けて被告人が主張する。

「弥生さんに汚物の付いている状態で放置していたので、幽霊が出てきたのかと思いました」

 そこで被告人は、風呂場からバスタオルをとってきて、被害者の汚物の処理に入った。

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「ジーパンを脱がし始める前に、まず弥生さんの右肩が上になるように横にして、お尻のあたりにバスタオルを敷かしてもらっております」

「敷き終わりまして、弥生さんの姿勢を仰向けにして、ジーパンを脱がしにかかった次第であります。詳しくは、横向きにして、お尻のあたりを先に脱がして、仰向けにして、それから脱がしはじめた次第です……」

 そんな調子で、ジーパンとパンティーを一緒に下ろした様子、それからこれをトイレに持ち込んで「固形物」を流した模様を事細かく再現する。

 傍聴席の最後列で証言を聞いていたぼくの少し前には、遺影を抱いた遺族が静かに座っていた。意図せずして、目線を上にあげると、その後ろ姿が視界に入る。同じ言葉が遺族の耳にも届き、被告人と同じ法廷の空気を吸っている。じっとしたまま動かない。固まっている。

©iStock.com

 やがて、被害者の下半身をきれいに拭うと、ジーパンから下着、バスタオルを丸めて天袋の中に投げ込んだ。

 いつの間にか、上半身がはだけ、下半身が露になった女性が、そこに横たわっている状態になっている。

 この間に、気が付くと赤ちゃんも死んでいた、といった。動揺が激しかった。首を絞めた認識もない。

 続けて弁護人が聞く。

 ──それから、身体に変化は感じましたか。

「はい。感じとります」

 ──それは何ですか。

「勃起している状態にありました」

 どうしてここで勃起していたのかは不明だ。そして、

「弥生さんにハイハイする状態で歩み寄ってます。心境として、お母さんに救いを求める状態にありました」

 ──近づいてどうしましたか。

「姦淫行為というものに及んでおります」

 それが、死者復活の儀式だったのだ。

私が見た21の死刑判決 (文春新書)

青沼 陽一郎

文藝春秋

2009年7月20日 発売