「NHKをぶっ壊す」のスローガンで注目を集めていた立花孝志氏率いるN国党が挑戦した2019年の統一地方選挙。当初は泡沫候補だと目されていた彼らも、結果を見ると47名の立候補者のうち、27名が当選。周囲の想像とは裏腹に大きな波乱を巻き起こした。
誰が彼らを支持していたのか、なぜ彼らは多くの人からの指示を集めることができたのか。『山本太郎とN国党 SNSが変える民主主義』より、著者真鍋厚氏の主張を引用し、紹介する。
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「生きづらさ」と失政を結び付ける
2019年、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリというカリスマを起点とする、地球温暖化対策を求めるデモが世界中で巻き起こりました。ソーシャルメディアで火が点き、膨大な人々が結び付き、組織的に呪詛を吐き出す。その怒りはネット上で山火事のように燃え広がったのです。これは富豪であったドナルド・トランプが、米大統領選で行った扇動的パフォーマンスによって、ネット上で過激な集団が現れたのと似ています。今やトランプ現象からグレタ現象に至るまで「再部族化行為」が、その不寛容ぶりを読み解く適切なキーワードといえるでしょう。
気候変動に懐疑的な米大統領ドナルド・トランプとグレタ・トゥーンベリは、互いに嫌い合っていることで知られていますが、その下でリーダーをそれぞれ担ぎ上げている人々を束ねる共通項こそ、インターネットと「部族主義」(トライバリズム)の最強コンボであり、第四章で引用したバートレットの「政治的にふたたび部族として結束する」新潮流でした。繰り返しになりますがその核心にあるのは「地位をめぐる闘争」なのです。
政権支持をめぐっての対立
日本においては、この各種ソーシャルメディアによって際限なく増幅された「スーパー部族主義」とでも言うべきものが、安倍政権肯定派と安倍政権否定派といったザックリとした対立軸で展開されました。安倍政権を支持する人々は、アベノミクスや、「九条に自衛隊を明記する」とぶち上げた憲法改正、政権の最重要課題として無条件の首脳会談すら提案した北朝鮮による拉致問題、「私とプーチン大統領の手で問題を解決する」と豪語した北方領土問題等々を鵜呑みにし、その肝心の実績にはほとんど興味を示さず「反アベ」を掲げる人々を「パヨク」と罵倒するだけでした。そこにあったのはぼんやりとした安定志向、保守っぽさであり、「すごい日本、美しい国への回帰」でした。これこそやってる感政治の真骨頂といえるものでしたが、未曽有の長期停滞が支配する状況下で、支持者はできるだけ手短かに「誇り」を取り戻すことが急務であったのです。