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「真っ赤なもの」は家を、義父を義母を一飲みに… 中国人毒婦を襲った火事の“顛末”

『中国人「毒婦」の告白』#5

2020/11/26

 2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。

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お母さんと約束した洗濯物

〈流れ星は長い長い弧を描きながら夜空を横断していきました。すると続けてまた一筋、光が走っていきました。私はこの一瞬の美しさをストップしたい衝動さえ覚えました。

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 こんな話を聞いたことがあります。

 流れ星を見たときに服のボタンを開けると幸運が飛び込んでくるというのです。私も、その流れ星を見たとき、一瞬、そうしたいと思いましたが、私が着ていたのはパジャマだけ。ボタンを開けたら胸がはだけ素肌が出てしまうし、とても寒かったので、そうはしませんでした。流れ星の美しさを名残惜しむのが精一杯でした。

 それと流れ星に関しては、もうひとつこんな話も聞いたことがありました。

 流れ星が出たら誰かが亡くなる前兆でもある――と。〉

©iStock.com

 詩織は寒空の下から急いで自宅に入った。

〈2階に戻り、トイレにいって、その後、洗面所で、のんびりと歯磨きをしました。鏡を見ながら顔と首に化粧水と乳液をつけ、それから部屋に入りました。

 茂さんは母屋から戻っていて、テレビを見ながら、あぐらをかいてビールを飲んでいました。茂さんは、よく友人とビールを飲みますが、ひとりで飲むところを見たのは初めてです。寒いのに、ビールを飲むなど私には理解できませんが、気にかけるほどのこともないでしょう。お酒は飲みたいときに飲めばいいのです。それが個人の自由というものでしょう。

 私はドライヤーを手にとり、びしょびしょの髪に熱風をあてました。髪が乾いたので、茂さんが観ているテレビをチラリと覗いたら面白くもなさそうなので布団の中にもぐりこみました。しかし、布団に入ったとたんに、突然ママ、お母さんと約束した洗濯物のことを思い出しました。