2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。

◆◆◆

焼け跡から2人の遺体を発見

 現実との大きなギャップの中でスタートした詩織の日本での生活だが、言葉が不自由な中でも、とりあえずささやかな喜び、団欒が手に入りつつあったことは手記からも窺い知れる。それだけにこの火災は、詩織のみならず、茂の生活をも暗転させる第一幕であった。

ADVERTISEMENT

 95年12月28日、鈴木家の母屋の焼け跡から茂の両親、利夫(当時78)と愛子(同73)のふたりの遺体が発見された。

「最初は、両親2人は近所に逃げていると思われていたんだ。火事も失火だろうと見られていた。だからやっと消火したあと、近所の人たちは年末なので正月前に焼け跡を急いで片づけてしまおうとしてダンプカーを借りた。ワッセワッセとダンプ2台分ほど片づけた時かな。警察が急にストップかけてきた。油の臭いがしてどうも変だと。それに鎮火してから結構時間がたつのにどこにも老夫婦が見つからないと。その頃、現場はもう藁屋根の藁と消火の水とでグチャグチャだったが、居間があったと思われた付近を集中して探した。そうしたらふたりが灰の中から見つかった。警察は2人の遺体を慌てて司法解剖にまわしたんだ」(地元の消防関係者)

©iStock.com

 司法解剖の結果、利夫は首を絞められ、愛子は頭を鈍器の様なもので殴られて殺害されてから、放火されたと判明した。

「茂さんの家で飼っていた犬、また隣家で飼っていた犬が吠えることは一切なかったという。だから犬がなついていた人物か、犬の扱いに慣れている人間が疑われた。さらに、こんな田舎で、しかも、鈴木家には失礼だが、どうみても外観からはお金をもっているようには見えない家に、強盗目的で入る者もいないだろう。従って、流しの犯行とは考えにくく、要は何らかの形で、利夫さん夫婦を殺すことでメリットがある人間ということで、身内や、集落内でアリバイが不確かな人物などが調べられた。当然、火事の第一発見者だった茂さん夫妻、特に詩織は徹底して調べられた」(捜査関係者)