ワシントンの米戦略国際問題研究所(CSIS)シニアフェローのスー・ミ・テリー氏は、「フォーリンアフェアーズ」8月号掲載の論文で、「(トランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官だった)ボルトンの回顧録が明らかにしている通り、長くアジアにおけるアメリカの防衛戦略の要だった米韓同盟は、トランプが再選されれば、生き残れないかもしれない」と警告していた。
トランプと文在寅は仲が悪かった
この背景には、トランプ大統領と文大統領の相性がかなり悪いことがあった。ワシントンポスト紙の著名記者、ボブ・ウッドワード氏が2018年に出版した『恐怖の男』では、トランプ大統領は文大統領を“disliked”、つまり嫌っていたとはっきり述べられている。同書では、米韓自由貿易協定と在韓米軍駐留費の問題をめぐって、2人の関係が悪化していった状況が描かれている。
また、ボルトン氏によると、トランプ大統領との緊密な関係を築くために、文大統領は安倍首相を含む世界の指導者と競い合ってきたが、このレースに敗れたという。
トランプ政権がリセットされることを歓迎する韓国では早速、文政権が率先して米朝間の仲介をすべきだとの声が高まっている。しかし、これは前のめりすぎるだろう。北朝鮮にしてみれば、韓国が「アメリカは経済制裁緩和に応じる」と言ってきたので、米朝会談に臨んだが、期待を裏切られた。同じように、アメリカにしてみれば、韓国が「北朝鮮は核放棄に応じる」と言ってきたので、米朝会談に臨んだ。しかし、北朝鮮の核放棄は希望ゼロだ。韓国のさらなる楽観的シナリオには、米朝ともになかなか乗らないと思われる。
同盟国・日本に求められるもの
一方の日本だが、バイデン政権になっても日米同盟強化の基軸は変わらないとみられる。
しかし、アメリカが率先する「集団行動」を重視するため、バイデン政権は日本に対し、対中国抑止力の強化や貢献をさらに求めてくると思われる。たとえば南シナ海を中心に、インド太平洋地域での日米共同監視活動などをさらに求められるのではないか。
また、バイデン政権は対中国、対北朝鮮政策で協調路線を打ち出し、日韓の連携を陰に陽に求めてくるとみられる。
このほか、バイデン政権は先端技術の輸出規制や安全保障では同盟国との関係強化をぐっと図る見通しで、中国との「デカップリング(切り離し)」を今後も進める可能性がある。中国を含む東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名したばかりの日本はどうするのか。米中のはざまに立たされることはないのか。菅政権には、あらゆる事態への準備が求められている。