東日本大震災から数年。変わりゆく町のなかで、日常を見つめ、こぼれ落ちそうな音を拾い上げる人がいた。岩手県陸前高田市で撮影されたドキュメンタリー『空に聞く』(11月21日公開)はそんな静かな感動に満ちた映画だ。監督は、震災後に東北に移住し町の変化を記録してきた小森はるか。陸前高田で一軒の種苗屋を営む佐藤貞一さんにカメラを向けた前作『息の跡』と同時期に撮影した新作『空に聞く』では、震災後に開局した「陸前高田災害FM」で約3年半パーソナリティを務めた阿部裕美さんの姿を追う。この驚くべき作品がどのように生まれたのか、小森監督にお話をうかがった。

小森監督

町なかでは聞こえてこない声が聞ける番組

――まずこちらも本当に素晴らしい作品である前作『息の跡』とのつながりについて聞かせてください。時系列としてはどのように2作品を撮っていったんでしょうか。どちらも震災後の陸前高田で出会ったある人物を、時間をかけて追った作品ですね。

小森 『空に聞く』の撮影が始まったのは2013年の1月からで、『息の跡』の佐藤貞一さんを撮り始めたのもほぼ同じ時期です。その時期から、私も陸前高田に暮らしながらちゃんと作品をつくりたいと考えるようになり、そこで撮らせていただきたい人として浮かんだのが佐藤さんと阿部さんでした。はじめはもう少し何人か撮らせてもらおうと思っていたんですが、結果的にお二人をずっと撮り続けることになりました。本当は2作品にするつもりではなかったんです。でも撮影していくうちに、これを一つの作品にまとめるとお二人を対比するように見せてしまう気がして、まずは佐藤さんを主人公にした『息の跡』を完成させました。

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©KOMORI HARUKA

――『空に聞く』は元々阿部さんを撮ろうと考えていたんでしょうか。それとも陸前高田災害FMへの取材という形で考えていたのが、結果的に阿部さんが主役になっていったのでしょうか。

小森 最初から阿部さんを撮りたいという気持ちが大きかったですね。阿部さんという人がいたからこそ陸前高田災害FMを撮りたいと思ったし、撮影を続けていくなかでその思いはより明確になっていきました。やっぱり阿部さんの思いが強い局だったと思うんです。お年寄りの方々の人生語りを聞く番組とか、障がい者の人たちがパーソナリティになって話す番組とか、情報だけではなく、普段の町なかでは聞こえてこない声が聞ける番組として注目されていたし、私自身もそれこそがおもしろいと思っていました。