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緒方はそれが愛の証だと信じていた

 この会場で初めて松永の妻を目にした緒方は、妊娠中の彼女の姿に罪悪感を覚えるが、それでも松永との不倫関係を解消することはできなかった。そして松永に言い含められていた通り、ふたりの関係を周囲には秘密にしていた。公判での判決文には、検察側による〈事実認定の補足説明〉のなかで記されていることがある。

〈緒方は、松永が既に結婚していた上、自分は農業を営む緒方家の長女であり、養子をとって家を継がなければならない身だと考え、両親等もそのように期待していたため、当初松永との結婚は考えていなかったが、松永は、緒方に対し、「妻とは仲が悪い。好きで結婚した訳じゃない。別れる準備をしている。妻は自分(松永)の財産を目当てに離婚に応じない。事業を起こすときに妻の父に多額の支援をしてもらったので、別れたいけど別れられない。」、「(緒方を)愛している。(緒方が)家の犠牲にされるのはおかしい。家を出られないなら、自分が仕事を辞めて養子に行く。」などと話したため、緒方の松永に対する恋愛感情は次第に真剣なものとなり、松永との結婚も考えるようになった〉

 人目を憚るという理由で、松永が緒方と会っていたのは、いつもラブホテルだった。彼らの“密会”の頻度は時間が経つにつれて増えていき、緒方はそれが愛の証だと信じていたようだ。

(※写真はイメージ ©️iStock.com)

 だが、松永が緒方に愛を囁く日々は、ふたりが関係を持って2年も経たないうちに終わりを迎える。とあることをきっかけとして、松永が豹変。緒方を罵倒するようになり、ときには肉体的な暴力を日常的に振るうようになっていくのである。

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 この凶悪事件をめぐる連載(一部公開終了した記事を含む)は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)に収められています。

完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件

小野 一光

文藝春秋

2023年2月8日 発売