三浦 人って自分の欲望が自分じゃわからないんですよね。だから、バイタリティがあるとかないとかって幻想で、自分で踏み出すよりも、背中を押してくれる誰かがいることが大事。これは映画『ハンニバル』に出てくるレクター博士の言葉ですが、「欲望というものは自存する感情ではなく、目の前にそれが現れたとき発動する感情だ」。

 つまり、これ興味ありませんかと声をかけてくれる人がいて、「あ、ちょっとあるかも」と自分の中にあった欲望に気づき、そこから踏み出した先に新しい世界は広がる。

かっぴー それは本当にそうですね。昨年、AdobeがLAでやっている世界最大のクリエーターの祭典に呼んでくれて、小さい娘を連れてLAを旅したんですよ。すごく貴重な体験になりました。

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三浦 『エレン』とAdobeのコラボレーション回、すごく面白かった!

かっぴー あれは最初予定していたプロットから、コロナ禍を受けて大きく変えたんです。Adobeには「延期しますか?」って言われたんだけど、ここで延期したら負けだと思って「コロナを描いていいなら描けます」といって今の内容になった。コロナを題材のひとつとして織り込んだわけだから、まだ解決していないこの問題への僕なりの責任のとり方としてチャリティ企画と連動しました。僕に渡す予定のギャランティは全部チャリティにまわしてくださいと。

 これまでは大きいところとタイアップして『エレン』を目立たせたかった。でも最近になって『エレン』を使って誰かが助かるんだったら使ってほしいという気持ちのほうが強くなりました。『エレン』に関しては、世の中に対する恩返しフェーズに入った気がしています。

三浦 僕はかっぴーさんみたいな0から1へものを生み出すクリエーターにすごくリスペクトがあります。物語の持つ力って人間の感情をプロデュースする力だと思う。勇気づけられるでもいいし、癒やされるでもいい。物語が持つ、感情をデザインする普遍的な力を、コロナ禍の中でアドビ編を読んで改めて再確認しました。

 

かっぴー 「最近どんな漫画読みました?」って取材で聞かれて、「僕が一番読んでるのは『左ききのエレン』です」って言ったの。それは別に仕事のために読んでるんじゃないんです、ただ読んでるの。面白いから(笑)。