教育大国で知られるスウェーデンで、若者たちの精神不調が急増している。10~17歳で精神科医にかかったり、向精神薬をもらったりしたことのある若者の割合はここ10年で倍増したというのだ。

 同国内でその原因を示す警告の書として、社会現象となるほどの反響を呼んでいるのが、『スマホ脳』という本だ。著者は精神科医のアンデシュ・ハンセン氏。ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学を卒業後、ストックホルム商科大学にて経営学修士(MBA)を取得したという異色の経歴の持ち主だ。前作にあたる『一流の頭脳』は世界的ベストセラーになっている。

 急増する精神不調は、スマホの中毒性が一因になっていると本書は説く。一日に何時間も(時に10時間以上も)スマホに囚われた結果なのだ、と。

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 むろん、スマホ利用者は世界中にいる。当然の帰結として、若者の精神的な不調は、日本を含め、世界中で爆発的に広がっているという。

 過去にもテレビやゲームの中毒性が問題になったことはあった。が、スマホのそれはより深刻であることを最新の研究は示している。なにせそのデバイス、あるいはアプリ、SNSの開発にあたっては、実際に脳科学者たちが動員されているのだ。つまりその中毒性は最初から仕組まれたものだということになる。ここでは『スマホ脳』(新潮社)より、スマホをめぐる恐るべき現実をご紹介しよう。

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 どうしてスマホがこれほど魅惑的な存在になったのか、その理由を知りたい場合には脳内のドーパミンに注目するといい。ドーパミンはよく「快楽」を感じたときに分泌される報酬物質と言われるが、実はそれだけではない。ドーパミンの最も重要な役目は私たちを元気にすることではなく、何に集中するかを選択させることだ。つまり、人間の原動力とも言える。

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「もしかしたら」がスマホを欲させる

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 あなたの祖先が、たまにしか実のならない木の前に立っている姿を思い浮かべてほしい。実がなっているかどうかは地上からはわからないので、木に登らなくてはいけない。登ってみて何もなかったら、別の木にも登って探すことが大事だ。ハズレを引いてもあきらめない人は、そのうちに高カロリーの果実というごほうびをもらえる。それで生き延びる確率も高まる。

 自然の摂理は予言できないものが多い。たまにしか実がならない木がいい例だ。ごほうびがもらえるかどうかは事前にはわからない。不確かな結果でドーパミンの量が急増するのは、新しいものを前にしたときと同じ理屈なのだろう。報酬を得られるかどうかわからなくても、私たちは探し続ける。この衝動により、食料不足の世界に生きた祖先は、そこにある限られた資源を発見し活用してきたのだ。