文春オンライン

「デジタル・デトックス」というアメリカの病的流行

2020/03/19
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 AIに関わる研究者や脳科学者、数学者などを世界中で51名取材してまとめた拙著『動物と機械から離れて』の取材で、頻繁に耳にする言葉があった。それは「デジタル・デトックス」。訳すと「デジタル断ち」が適切だろうか。特にAIならびにIT産業の中心地であるアメリカ西海岸のシリコンバレーで、この言葉を頻繁に聞くことになった。

『動物と機械から離れて AIが変える世界と人間の未来』(菅付雅信 著)新潮社

デジタル漬け生活への大きな反動

 彼らが言うデジタル・デトックスとは、週末または月に数日、郊外のデジタル・デトックス専門のサナトリウム(療養所)やジム、野外キャンプ地に出向き、PCやスマホ、タブレットなどのデジタル・デバイスを施設に預けて、デジタルなものを身の回りから遮断する行為のこと。そしてデジタル情報の洪水から抜け出て、瞑想やヨガ、読書や思索にふけることを促すものだ。過剰なまでにデジタル漬けとなった仕事や生活様式への、大きな反動だと言えるだろう。

 デジタル・デトックスの施設には次のようなものがある。カリフォルニア州内陸部のパームスプリングスにある「スパローズ・ロッジ」は、若者に人気な一軒。1泊約35,000円でテレビもゲスト用の電話も全く用意されていない。入口でデバイスを預けた後は、山の景色を楽しみ、散歩やサイクリングに勤しむ場所だ。カリフォルニア州北部に誕生したキャンプ場「キャンプ・グランデッド」は、3泊3食付きで約10万円からなる、デジタル・ガジェット一切なしの生活を送るための施設だ。

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※写真はイメージ ©iStock.com

 しかし、このようなシリコンバレーで大流行の新習慣は高価であり、それが広くあまねく人々に行き届いていないことは問題だと指摘する人も現れている。サンフランシスコ在住の女性アーティストで、全米で話題の本『How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy(いかに何もしないか:アテンション・エコノミーへの反抗)』(2019年)を著したジェニー・オデルがその代表例だ。そのオデルにスカイプで話を伺った。