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裏切られ続けた少年

 【女のことは書けねぇー、普通ならな!   だって知ってるよなぁー、オレが……したのは女なの!   ……しかも子供もな!   ……何も罪はねぇー、二人は幸せだったのにオレは、恐怖の大王、となりの地球へ……オレたちって、神のコマなのかなーって考える】

 【これがキミはわかるかな?   私はキミたちのように人の外面にキズを付けたのでなく、私は人の内面にキズを付けた人間である……。誰が許し、誰が私を裁くのか……。そんな人物はこの世にいないのだ。(中略)二人は帰ってこないのだから……。この世に霊がいるなら、法廷に出てきてほしいものだ……】

 【オレはマザコンではないだろうかと思うくらい母さんが好きだった。母さんもオレや弟をだいじにしてくれた。でも裏切られた。たとえだれが何と言ってももーだめだと、自分の人生を捨ててしまって殺人までした。たぶん自分が死んでカマでももった死神になっていたのだろう。殺生のせの字も考えてなくて……でも今は自分の捨てた夢や愛に目覚めたいと思っている。まちがっても人なんて殺さないと神に誓っている。クサクサ、とか思う人もいるかもしれないがもう自分をみだしたくない。今までは人が死んでも涙もでなかったが、いまでは紙きれ一つで号泣だ】

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 そんなことを、同じ紙面に著わしていた。

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 事件や裁判に対して、おちょくったような言葉があるのも正直なところなら、こうした自分を見つめるところも、また彼の正直なところではなかったか。

 誰か、そのわずかな一面でも酌みあげる手立てはなかったのか。

 彼は同じ文面の中に、繰り返しこんな一文を書き示している。

 【これはワシのストレスかいしょうほうです!   こういう手紙は友達にしか書けません!   ごりょうしょうくださるようお願いします!】

 【この手紙はオレと神だけのものだ。できることなら、オレが最高裁すんでから他の人に見せてくれ!   な。信じてるぜぇ相棒よ】

 【注意しとく。外の犬に手紙を見せるなよ!   マスコミのバカは人間でなく、国の犬、以下のクソのようなヤツらよ】

 少年は様々な人たちに裏切られ続けた。

 こうして、犯行当時史上最年少の死刑判決者が誕生したのである。

私が見た21の死刑判決 (文春新書)

青沼 陽一郎

文藝春秋

2009年7月20日 発売