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「説明しないのは詐欺ですよ」

 シェルターやJヴィレッジで使われていたのは、日立アロカメディカル社製のTGS―146Bだった。

 目盛りは上下に数字があり、上は0・1刻みで0~3、下は0・5刻みで0~10だ。作業を終えてシェルターに戻ると、まず正面を向き、手のひらから測る。回れ右をして後ろを向き、背中や足の裏を計測するまで、針が示す値をずっと見ていた。毎回、下の部分にある“2”の付近を上下するので、「200くらいですか?」と訊いた。係員は頷く。虚偽はない。実際は2000カウントなのに、こちらが勝手にレンジを1キロだと錯覚し、200カウントと思い込んでいただけである。

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 地元に暮らす業者たちは、こうした騙しのテクニックを苦々しく思っている。これ以上故郷が汚染されるのは耐えられないと訴える。

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「作業員のために……それもあります。みんなそんな細工があることなんて、想像もしてないと思うんです。普段から原発に入ってる職人さんたちのほうが気づかないかもしれない。いつものやり方に慣れてますから、つい錯覚してしまう。本当はきちんと説明してあげるべきです。詐欺ですよ。みんな汚れたまんまJヴィレッジに戻ってきて、汚れたまんま車に乗って、あちこちに汚染をばらまいてる。ほんとは温かいおしぼりで除染するか、できたら綺麗な水でシャワー浴びさせてあげたほうがいい。そのあと、全部新しい服に着替えさせてJヴィレッジから出す。いままでの原発の感覚からいえば、そのくらいしなきゃホントは駄目なんです。

 それに地域のためにも正直に伝えたほうがいい。福島で生まれ育った自分にとって、故郷がこれ以上汚れるのは耐えられない。でもそれを告発すれば仕事を失ってしまう。私たちも卑怯なんですよ。自分の給料、生活を第一に考えてるんだから……」

 話しているうち自分の言葉で興奮したのか、業者の目は涙ぐんでいた。

ヤクザと原発福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売