男性が陥りがちな肌トラブルのきっかけ
じつはマスクの肌荒れは男性にも少なくない。
「男性の場合は、ひげを剃った痕が痛くなることが多い。朝ひげを剃って、そのあと長時間にわたってマスクを着けることで、ひげ剃り痕に雑菌が繁殖して炎症を起こしてしまうのです。しかも、傷んでいる皮膚に翌朝またカミソリを当てることを繰り返すので、肌荒れも痛みも日増しに大きくなっていく」
羽尾医師のクリニックでは、コロナ禍との因果関係は不明ながらも、ここに来て「ひげの脱毛治療」を希望する男性患者が増えているという。
肌荒れしやすいのはどんな人?
当然のことながら、マスクを着けている時間が長い人ほど肌荒れのリスクも高まる。中にはマスクをしたまま寝てしまった人が、朝になったら口の周りにひどい皮膚炎を起こしていたケースもあるという。マスクをした生活に慣れるのも善し悪しだ。
同じ「長時間着用」の人でも、肌が荒れやすい人とそうでもない人がいるという。キーワードは「会話」だ。
「会話をする時間の長い人ほど症状が強く出る、という傾向は確かに見られます。同じように長時間にわたってマスクをしている人でも、喋る機会の少ない人よりは、会話時間の長い人のほうが肌の受けるダメージは大きい。これは“呼気”による雑菌の繁殖が原因と思われます」
口の中には様々な常在菌がいて、これが呼吸と一緒に吐き出される。雑菌としても、口からは出たもののマスクによって行き場がないので、仕方なく口や鼻の周囲の肌に棲み付く。しかしそこはマスクによって適度な湿度が保たれていて、意外に住環境は優れていた。そこで雑菌たちは盛大に繁殖活動を展開する――という仕組みのようだ。
国立長寿医療研究センター口腔疾患研究部の松下健二部長が解説する。
「マスクをすると口で呼吸することが多くなるので、口を閉じた状態のときに較べれば口の中は乾燥に傾きます。その結果、口腔細菌の繁殖を招いて粘膜から舞い上がりやすくなるのです。口腔内にはレンサ球菌や黄色ブドウ球菌が常在菌として存在しており、これらの菌が口腔周囲の皮膚に付着、定着すると皮膚炎を誘発する危険性がある。特に、黄色ブドウ球菌はアトピー性皮膚炎を悪化させることが知られており、そのような疾患を持つ人は要注意です」
松下部長によると、歯周病菌などの口腔細菌は「嫌気性」といって酸素の中では生息できない。そのため皮膚に付着してもすぐに死滅してしまうのだが、その菌体成分(菌の構成成分)のLPS(リポ多糖)は皮膚に残存して皮膚炎を誘発、悪化させることが分かっている。
“蒸れている”という状態は、肌のバリア機能を低下させる。それだけでも刺激に対して弱くなっているところにマスクの刺激も加わるので、雑菌の温床になりやすいのだ。
前出の羽尾医師によると、会話の多い人のマスクの中は、呼気がこもるので“おむつの中”と同じような状況になっているという。ウイルスに感染するのは嫌だが、おむつと同じ環境で呼吸を続けるのも、あまり好ましいことではない。
春から夏にかけてのマスク着用は「汗による蒸れ」が原因で肌荒れを招いたが、いまの時期のマスクによる肌荒れは「雑菌を含んだ呼気による蒸れ」が原因、という違いがあったのだ。