欧米だけでなく、アジア諸国と比較しても賃金、物価ともに低水準な日本。先進各国では上がっている実質賃金も、日本ではこの30年間ほとんど上がっておらず、訪日外国人が増えた理由として、「物価が安い」ことが挙げられるようになりつつあるという。日本は世界的に見てどんどん「安い」国になっていると言わざるを得ない現状だ。では、一体どうすればこの状況を打破できるのか。

 経済評論家として活躍する加谷珪一氏の著書『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』を引用し、日本経済の現状、そして打開策について紹介する。

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手取り14万円 終わっているのは日本かお前か

 通貨の過剰発行など金融的な理由でインフレ(物価上昇)が発生するケースもありますが、基本的に物価というものは経済成長と連動しており、経済が拡大すると、それに伴って上昇します。逆に言えば、経済成長が実現できていない国は、賃金も物価もなかなか上昇しません。

 冷静に考えれば、ごく当たり前のことなのですが、日本の場合、不景気とデフレが長く続いたせいで、私たちの経済に対する感覚はかなり鈍くなっています。実際、今の日本の現状について、どう解釈すればよいのかとまどっている人も多いのではないかと思いますが、昨年、ネット上でこうした事態を象徴する出来事がありました。

 2019年9月、自身の安月給を嘆き、「日本は終わっている」と主張したネットの書き込みに対して、ホリエモンこと堀江貴文氏が「お前が終わっているんだよ」と辛辣に批判したことがネットで大論争となりました。

©iStock.com

 ホリエモンが批判したのは、ある掲示板サイトに立てられた「手取り15万円以下の人」というトピックでの書き込みです。投稿主によると、自身は40歳前後の会社員で、都内のメーカーに12年勤務してきたそうですが、手取りは14万円しかないとのことです。本人は掲示板上で「役職も付いていますが、この給料です…… 何も贅沢出来ない生活 日本終わってますよね?」と書き込みました。

 この書き込みには多くの共感が寄せられ、ツイッターでも話題となったのですが、ホリエモンは自身のツイッターでこの発言を取り上げ、「日本がおわってんじゃなくて、『お前』がおわってんだよ」と一喝。この発言がネット上で一気に拡散しました。

 ホリエモンの発言に対しては賛否両論となったわけですが、興味深いのは、今の日本社会においては、ホリエモンの発言も投稿主の発言も、基準を変えてしまうと、どちらも正しくなってしまうという点です。

 ホリエモンの主張は説明するまでもなく、いわゆる自己責任論ということになるでしょう。投稿主は、役職もついているということなので正社員と考えられますが、12年勤務して手取りが14万円では、(この情報が正しければ)かなりの低賃金です。

 12年の間にスキルアップしたり、転職を試みることは可能であったという現実を考えると、この状況に甘んじているのは本人の責任であるというホリエモンの主張には一定の合理性があると思われます。