共感しにくいスパダリを次のステージに押し上げた
とはいえ、スパダリは完璧すぎる故に、本音が見えにくく、共感したり愛でたりしにくい性質もある。しかし「チェリまほ」は、そんなスパダリを次のステージに押し上げている。私たち視聴者はスパダリ・黒沢の、本来なら隠されている“本音”を聞くことができる。なにせ安達は“魔法使い”なのだ。
スパダリ黒沢は爽やかな笑顔を浮かべながら、朝から愛しの安達に会えただけで《ラッキー》と感じ、エレベーターの混雑で周りに押され、安達の近くに来るとドキドキし、寝ぐせを見て《可愛い》と感じる。安達が近づくと《いい匂い》とうっとりして、うなじにあるホクロを発見して《ホクロ、ホクロ、ホクロー!!!》と興奮してしまう。
こんな本音も下心も丸出しのスパダリ、いままでいなかった。そして下心だけでなく、安達へのピュアすぎる恋心も露わになる。
この日も、安達は夜遅くまで同僚に押し付けられた仕事を《結局、仕事引き受けちゃったし!》と嫌々こなしていた。安達に付き合ってともに残業をしていた黒沢だが、寒そうにしている安達に自分のマフラーを巻いてやる。そこで安達に心の声を聴かれるのだ。
《安達、自己評価低すぎ。いっつも周りの空気読んで、一歩後ろに引いてて、朝も人にエレベーター譲ったり、先輩の仕事押し付けられても嫌な顔しないで。本当はめっちゃ優しくていい奴で、それに仕事は丁寧にキチッとこなす。そういうところが、俺は……》
それまで黒沢から漏れ出ていた《いつも同じ場所についている寝ぐせが可愛い》というちょっとキモめの下心も、単なるオタク的萌えポイントではなく(最初はそうかと思ったが)、“自分のことにはだらしないのに、人の気持ちには敏感で、仕事は丁寧”という、安達の人柄が土台にあっての《可愛い》なのだ。
モテモテな完璧男子のくせに、好きな相手に対しては遠慮しぃで臆病。そのくせ好きな相手が困っているときにはすぐに駆け付け、助けてくれる優しさ。心の声が聞こえることで、主人公の安達だけでなく私たち視聴者も、黒沢のそんな分かりにくい魅力を知ることができる。
少年のような恋心と、奥ゆかしさ、頼もしさを併せ持つ黒沢は、まさに「スーパースパダリ」なのだ。