女性も共感する悩み
そして、Twitterトレンドで世界5位になった第7話では、そんなスパダリ・黒沢が安達を好きになったきっかけが明かされた。
黒沢はその優れた容貌ゆえのコンプレックスを抱えていた。たくさんの女性に告白されても、「外見しか見られていない」と感じてしまう黒沢。しかし、それを口にすればイヤミになるから、気にしていないフリをして、「周りが求める完璧な自分」を演じて、仕事も人間関係も常に誰より努力してきた。
しかしイケメン好きの女性社長との飲み会で、セクハラを受けて思わず拒絶。すると「顔だけが取り柄なのに」と陰口を叩かれ、これまで抑えてきた感情が決壊。酔って公園のベンチに寝そべりながら、一緒に飲み会に参加していた安達に「顔要員で連れてこられたのに、結局役立たずで」と弱音を吐くのだ。
しかし安達は「そんなことない」と否定。「社長のことをすごくリサーチして、製品のことも全部覚えてたし、俺のかわりに酒飲んでくれたし」と、黒沢の外見ではなく努力の部分を褒めてフォローする。しかもこんなことまで言いのける。
「いつも完璧な黒沢が弱ってるところ見るの、新鮮で。なんかいいなって(笑)」
そして「ちょっと寝ろよ」と声をかけ、優しく胸のあたりをトントンする(お母さんか!)。
安達が女性キャラクターだった場合、黒沢はここまで癒されないだろう。黒沢のコンプレックスを考えると「安達が優しいのは俺の外見のせいか?」と勘繰ったり、セクハラをしてきた女性社長を思い出して、「トントン」も素直に受け入れられなかったかもしれない。
しかし安達は男。そしておそらく異性愛者だ。だからこそ優しい言葉や仕草を素直に受け入れられ、恋心が芽生えるに至るのだ。視聴者も、BLだからこそのピュアな思いに心打たれ、癒されたことだろう。
「チェリまほ」は「おっさんずラブ」を超える作品になるのではないか
「チェリまほ」は“BLすぎる”ゆえに入口の段階で視聴者を選んでしまう傾向もあるが、“BLすぎる”がそれゆえに普遍的な物語が描かれている。BLというと、濃厚な絡みばかりをイメージする人もいるかもしれない。その点、「チェリまほ」は視聴者がもだもだするほど、どちらも奥ゆかしく、ピュアである。これは異性愛においてはもはや描きにくい純愛なのだ。
安達が気づいていない魅力を評価し、自信を与えてくれる黒沢。黒沢の壁や薄い膜で覆って傷つきやすい心にそっと触れ、背負っている荷物をそっとおろさせてくれる安達――。こんなの、ときめかないわけがない。
今後、SNSを中心に多くのファンの間で盛り上がり人気の裏付けができれば、急速に認知度が高まっていくはずだ。「チェリまほ」は「おっさんずラブ」を超える作品になるのではないか。ここにきて、そんな予感が確信に変わってきている。