文春オンライン

2020/12/01

genre : ニュース, 社会

起こってしまった悲劇

 結局森と60代の女性は、周囲の助言や忠告を聞かず、なかば飛び出すように2人暮らしを始めた。

「彼らも一人の人間ですから、最終的にわたしたちは、2人の考えを尊重するしかなかったんです。オーエスフォワードのもとを離れる以上、森君たちとは“他人”になってしまう。でもわたしたちには、“最後まで面倒をみる”、“けっして見捨てない”という信念がありましたので、その後も彼とは頻繁に連絡を取り合うようにしていました」

 そして悲劇は起きてしまった。C氏の携帯電話に、森からのメールが届いた。

「Iさんとケンカしちゃった」

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 凶行は懸念していたとおり、偶数月の10月28日。本人の証言によると、森はその夜、Iさんと金銭をめぐるトラブルで言い合いになったのだという。もしもあと2日、何事もなく過ぎていたら――そう思うと、残念でならない。

 C氏は重い口を開いた。

「森君のような心に病を持つ人たちは日本中にたくさんいる。でもそれが問題なんじゃない。まずいのは、彼らがどこにも行くあてがないということ。その事実があるかぎり、今回のような悲劇はいつどこでも起こり得るんです」

まるでババ抜きのジョーカーのように扱われる

 森晃生の経歴を知れば、彼が一般社会で人並みに暮らすことが難しいと誰しもが思うことだろう。

「森君は、はた目には“普通のやつ”に見えるんです。しゃべるし、笑うし、会話もできる。だからこそ、彼が問題行動を起こしたときには、いわゆる“不良”だとか“暴力男”みたいなレッテルで周囲の人間から距離を置かれてしまう」

 2019年に話題となった『ケーキの切れない非行少年たち』では、健常者として認められるIQをギリギリ上回る子どもたちが日本に数多く存在し、彼らが社会でさまざまな“生きにくさ”を感じて非行に走る現状を主張していた。

NPO法人オーエスフォワードで支援を行っている男性。知的発達に問題を抱え、刺青を入れられるなどの悲惨ないじめを受けてきた

 C氏によると、まさに森晃生は、“IQをギリギリ上回る”――あるいは下回る――可能性のある人物だったという。