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松永は緒方に「婚約確認書」を見せて……

〈被告人松永は、和美からも好意を寄せられるようになり、和美とも肉体関係を持つようになったところ、昭和59年(84年)8月ころ、和美から「お父さん(孝さん)が疑っているから、お父さんの前ではちゃんと被告人緒方と結婚すると言って。」と言われた。

 

 そこで、被告人松永は、和美と相談の上、「婚約確認書」(検甲241号証)を作成した上、昭和59年8月29日ころ、被告人緒方に対し、上記「婚約確認書」を見せ、これに署名するか否かを確認した。

 

 和美としては、被告人緒方の母として、できれば被告人緒方と被告人松永を別れさせて被告人緒方に普通の結婚をさせたいという気持ちと、女として被告人緒方を排除したいという気持ちを併せ持っており、もし被告人緒方が婚約確認書を作ることに躊躇して拒否すれば、被告人緒方は被告人松永と別れ、その場合、被告人松永が和美とだけ交際を続ける、という筋書きを考えていたのであった。

 

 ところが、被告人緒方は、被告人松永に愛情を抱いていたので躊躇なく上記「婚約確認書」に署名した。その後、被告人松永が、和美と飲食する際、同書面を和美に見せてその顛末を報告したところ、和美は、被告人松永に対し、「純子(被告人緒方)はあんたにいかれてしまっとるね。私のことがばれたらどげんなるやろうか。」などと言った。これを聞いた被告人松永が「もう会わんほうがよかかもしれんね。」と言うと、和美は、「ばれた時はその時たい。」と言った〉

※写真はイメージ ©️iStock.com

和美さんが背後で主導権を握っていたかのような印象付け

 この松永の主張を盛り込んだ松永弁護団の冒頭陳述では、それから松永が孝さんにふたたび緒方との結婚を申し入れるが断られること、さらに孝さんに和美さんと松永との関係を知られてしまったことなどにも触れられている。そのうえで次のように続ける。

〈被告人松永は、昭和59年秋ころ、和美と週1回は会っていたところ、和美から、「被告人緒方はあんたに子供がおることを知っとるとね。」と聞かれ、「知っとるよ。婚約確認書にものっとったやんね。」と言った。これに対し和美は、「どうして被告人緒方はよりによって。あんたば選ばんでもよかろうもんね。」「あんた(松永)だまされよるかも知れんよ。被告人緒方は他に好きな人がおるよ。」と言った。被告人松永は、和美があまりにしつこく言ってくるので、被告人緒方の気持ちを再確認しようと考え、「婚約確認書の一部を変えていいか。不安なところがあるから。」と言って真意を説明せずに再度婚約確認書(検甲242号)を作成して被告人緒方にサインを求めたところ、同年(84年)10月21日、被告人緒方はこれに応じた〉

 2通の婚約確認書にどのような内容の変化があったかはわからないが、ここでの松永の主張からは、いかに彼が和美さんと親密な間柄にあったか、さらには緒方を加えた三角関係のなかで、和美さんがいかにも背後で主導権を握っていたかのように、印象付けようとしていることがわかる。

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 なお、検察側も松永と和美さんの関係についてはある程度認めており、公判での冒頭陳述において、〈(松永は)緒方の行く末を案じていた和美に対し、人目のないところで別れ話の相談をしようと持ち掛けてラブホテルに連れ込んで肉体関係を結ぶようになり、そのころから、和美は被告人両名の交際に反対しないようになった〉との表現で触れている。