「お前のせいで俺の人生は滅茶苦茶になった」
この年、秋になると松永の緒方に対する態度は豹変する。公判での判決文のなかにある、検察側が〈事実認定の補足説明〉として提出した証拠資料には以下の文言が記されている。
〈松永は、昭和59年(※1984年)秋ころから、緒方が友人に松永との交際を話したことや、和美が興信所を使って松永の身上等を調査したことなどを理由として、緒方に対し、「お前のせいで妻に交際がばれた。お前のせいで結婚できなくなった。お前のせいで俺の人生は滅茶苦茶になった。」「どうして俺を疑うんだ。俺を愛していないのか。俺のことを信用していないのか。」などと責めるようになった。さらに、昭和59年11月ころから、緒方の過去の男性との交際や交友関係等を執拗に問い詰めながら、「(緒方が)自分を信用していない。」などとして、緒方に対し、身体を殴打したり足蹴りしたり、頭髪をつかんで振り回したりするなどの暴力を振るうようになった。緒方は、「何とかして松永に自分を信用してもらいたい。自分が松永に信用されないのは自分が悪いからだ。」などと考え、松永の暴力や松永から言われることを黙って受け入れ、また、松永から言われるままに、親戚や友人に執拗に嫌がらせの電話をかけるなどし、自ら親戚や友人との関係を絶っていった〉
緒方の右胸と右の太ももには、現在も松永の名前が刻まれているという。その経緯もこの補足説明には記されていた。
安全ピンと墨汁、煙草の火で身体に名前を刻印
〈松永は、昭和59年終わりころ、緒方の男性関係を追及するなどし、「自分を信用して欲しい。」と言う緒方に対し、「本当に自分に対して愛情があるのなら、身体に印を付けてもいいだろう。」などと言い、これを受け入れる態度を示した緒方の右胸に煙草の火を近づけ、火傷の痕で「太」と刻した。また、松永は、そのころ、緒方の右大腿部に安全ピンと墨汁で「太」と入れ墨をした〉
なお、この件に関して、松永弁護団の冒頭陳述では、まるで緒方が刻印を望んだかのような、松永の主張が展開されている。
〈被告人松永は、被告人緒方から「自分だけのものにしてほしい。印がほしい。」と言われ、「別れたりするとき因縁をつけられるかもしれない。」と思いながらも、一方で、「俺も男だ。一生俺の側においてやろう。」と思い、被告人緒方に対し「胸に印をつけるのが一番だと思う。でも、そうなればおまえも永久に男を作れんごとなるかもしれんが俺も責任重大でおまえのことは一生めんどうを見るけん。」と言ってタバコの火を被告人緒方の胸ぎりぎりまで近づけ、「太」という字の焼印を入れた。被告人緒方は、そのころ同様の趣旨で太ももに「太」の字の刺青を入れた〉
こうした説明を平然とできる点だけでも、松永という男の本性が浮かび上がってくる。