取っ手がグラグラしている鍋で
〈この頃、妹が誕生日のプレゼントとして買ってくれたCDをよく聞くようになっていた。医者も音楽が好きなら好きなだけ聞きなさい、病気に効果的だとおっしゃってくれました。私は特に宇多田ヒカルが大好きで「ファースト・ラブ」など何度聞いても飽きませんでした。
夕方、乾いた服をたたんでいたら茂さんが帰ってきました。
「お風呂できた?」
「できているよ」
「じゃ、入ってくるね」
「いいよ」
こんなやりとりがあって茂さんは風呂に入りました。
私は立ち上がって冷蔵庫の鶏肉と豚肉と野菜を取り出し、鶏肉に塩と調味料を振りました。それから外に出て、ミョウガの葉を10枚摘みました。すでに、もう黄色くなっています。
台所に戻ると、旧いオンボロ鍋を取り出して洗い、水を8分目までいれガス台にのせ、火をつけました。この鍋は取っ手がグラグラしている我が家で一番古い鍋です。私はミョウガの葉を洗い、包丁で細かく刻み、鍋に入れました。煮え立つまで放っておくことにしました。
さきほどの鶏肉に香辛料を振り、炒める準備をしました。豚肉も切り、小さな碗に入れ、まな板を洗って野菜を切りました。いつも初めに味噌汁を作ってからお惣菜を作ります。なぜ、そうなったのかハッキリはしませんが、茂さんのお母さんがそうしていたからでしょう。ともかく味噌汁の鍋を洗って水を入れ、ガス台に乗せました。
自分のビールの入ったグラスを摑んで再び台所に戻りました
この時、茂さんが、風呂からあがり、ドアの右側のタンスから半そでのTシャツを出しているのが見えました。
それから茂さんはテーブルに着き、新聞をとって、テレビを見始めました。
私は冷蔵庫からビールを出し、聞いていた音楽のイヤホンをはずしました。料理を作りながらでも宇多田ヒカルをイヤホンでボリュームを上げて聴くのが習慣になっていたからです。
イヤホンをはずした私は茂さんとビールで乾杯しました。彼が乾杯を中国語の口調で言ったのには思わず笑いました。私は茂さんに料理はすぐできるから待っていてねと言い、茂さんは、オウと答えました。再びイヤホンを耳にしたとき、茂さんは、音をあまり高くして聞いていると歳をとってから耳が聞こえなくなるぞと忠告してくれました。私はウワの空で返事をしながら、ボリュームを上げ、自分のビールの入ったグラスを摑んで再び台所に戻りました。
私は炒め物が得意です。何種類かの惣菜を瞬時に作ることができ、味付けもまあまあです。小さな鍋に野菜を入れ、味噌汁のために野菜を切りました。肉と野菜の炒め物を作るために豚肉に醬油と胡椒とダシの素と片栗粉をつけ、手で混ぜました。こうすると手間がかかりますが、出来上がった肉はとてもおいしく、私は面倒なことがいやではありません。