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「茂さんの顔はサッカーボールのように腫れあがって…」 中国人妻は、なぜ煮えたぎるお茶を夫にかけたのか

『中国人「毒婦」の告白』#12

2020/12/17
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 2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。(全2回の2回目。1回目を読む)

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◆◆◆

もっと大きな病院でないと治療できないといわれ、救急車に

「痛い? ごめんね」

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「いや痛くない。寒い」

 運転のスピードはのろく信号では止まらなければなりません。心が焦ればあせるほど、時間が長く感じられました。やっと病院に着き、降りるときも妊婦のようにゆっくりです。どうしていいかわかりません。彼を支えてあげたいけれど、皮膚に触れると痛いようなので手がだせません。

「車椅子に乗る? 車椅子もってくる?」

 茂さんは黙って首をふりました。話したくないようです。

 太った若い当直の先生が走ってきました。看護師が服を脱ぐのを手伝い簡単な診察がありました。やがて、この病院ではどうにもならない、もっと大きな病院でないと治療できない、といわれ、救急車に乗せられました。車の中で毛布をかけてあげました。まだ震えています。心が痛みます。

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「痛い?」

「痛くない」

「寒い? でも、なんで台所で、私のすぐそばにいたの?」

「梅酒の中の梅を取りに」

「ビールを飲んでいたんじゃないの?」

「ビールがなくなったんだ」

「じゃ、どうして私にもってこいと言わなかったの?」

「お前は料理を作るのに忙しそうだったし、俺の声が聞こえていなかったから」

 そう私は宇多田ヒカルをボリューム一杯で聞いていたのです。

「だから、自分で取ろうとした」

 彼の声はだんだん低くなってきました。疲労して暖かさを求めているようでした。もう彼にいろいろ聞くのはやめました。

 旭市の病院に向かう救急車の音は、痛い痛い、寒い寒いと叫んでいるようでした。