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『しゃがんでいたところに後ろから2回にわたって湯をかけられたことを告白』

 前述したように、詩織は、この件については一貫して無罪を主張していた。

 では検察側は、この火傷事件をどう見ていたのか。再び冒陳から、その主張を見てみる。

『被告人(詩織)は平成15年(03年)10月18日午後6時20分ころ1階台所において、ミョウガの葉っぱを両手鍋で煮立てミョウガ茶を作っていたところで居間でビールを飲むなどしていた被害者(茂)に対し梅酒の梅を取って欲しい旨を依頼し、ちょうど被害者が梅酒の容器の中から梅を取るために被告人に背を向けてしゃがみこんでいたところに、その背後から沸騰しているミョウガ茶を被害者の全身に浴びせかけた』

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『被害者は八日市場市民総合病院(現・国保匝瑳市民病院)における診察の際、被告人が同席していたこともあり医師に対し火傷を負った原因について「鍋の湯を頭からかぶった」と説明するのみで詳しい状況について説明を拒んだ』

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『被害者は火傷事件につき世間体を慮り、また被告人と完全に対立すれば中国にいて居場所の分からない子どもふたりを取り返すことができなくなるとおそれ周囲の者に対し火傷は自分の不注意から負ったものである旨、噓を言っていたが弟ら親密な者に対してはその真相を話した上、再度被告人から被害者が梅を取るように言われてしゃがんでいたところに後ろから湯をかけられたことや火傷事件後に被告人から被害者が鍋にぶつかったことにして欲しいと頼まれたこと等を告白した。また、被害者は平成16年(04年)1月15日ころ友人らに火傷事件について被告人から梅をとるように言われてしゃがんでいたところに後ろから2回にわたって湯をかけられたことを告白した』

 判決が確定した後の詩織は私との面会の際も、この火傷の話になると、「私は絶対わざとやっていない」と身振り手振りを混じえて激しい口調で否定していた。

これまで茂をことごとく否定してきた詩織

 一方では近隣住民からは、こんな声も聞こえていた。

「大火傷を負ったのに、どうしてあのとき、最初から救急車で行かなかったのか。茂さんも含めてどういう判断だったのか不思議でならない」

 この双方の争点については、さらに後章で詳述しよう。

 さて、ここでもうひとつ、この一連の火傷騒動で、注目すべき点がある。それまで茂のことを、セックスの相性も含めてことごとく否定していた詩織が「愛情を高めあうことができた」とまで、心境を変化させたことだ。

 多分、一瞬の高揚なのかも知れないが、詩織の心の奥底に、平凡な愛や、暖かな家庭を求める何かが多少あったに違いない。それは人としての情と呼ぶべきものだったのだろうか。

中国人「毒婦」の告白

田村 建雄

文藝春秋

2011年4月20日 発売