テレビの周波数帯大規模改編は、「改編ありき」で話を進めると、それにともなうコストだけが目立ってしまう。そのコストを、今の放送業界に期待していいのだろうか。また、仮に周波数帯が空いたとしても、使える周波数帯の帯域幅によっては、携帯電話事業者もさほど魅力的に感じないだろう。
携帯電話事業者・通信事業者が必要とする周波数帯域はどこで、どのくらいか、という議論も必要だ。地上波のUHF帯を5Gに使うよりも、IoTなどの低速・常時通信型機器のために、アナログ放送時代に使われていたが、今は活用されていないVHF帯(特に「V-High」と呼ばれる207.5から222MHzの領域)を活用する、といった発想もあり得る。通信とは、スマホやPCのようなものだけを指すものではなく、広い視野での検討が必要だ。
放送と通信の境目は小さくなっている。そこで必要なのは「グランドデザイン」だ。国として電波をどう使い、国民がどう情報を活用するのか、という政策が必要になる。
NHKの議論のスタート地点は別のところにある
NHKの経営健全化は、その一部でしかない。重要なことだが、国としての放送・通信行政のグランドデザインなしに「安くなるから」で進めていいものではないはずだ。
NHKのことを考えるなら、EテレよりもむしろBSをなんとかすべきではないか。BSについては、日本上空の衛星軌道と衛星放送用帯域確保が地政学的意味を持っていることもあり、単純に損得だけでは判断できない部分がある。とはいえ、基幹放送というよりはほぼ「有料放送」と化しているBSの方が、民間への切り出しやネット移行には向いているのではないか。
また、ネットと放送が一体運営されていないが故の「高コスト構造」も早急に改善すべき点だ。NHKのインターネット関連事業には費用上限が設定されており、その中でしか事業展開が行えない。結果的に、できることが限られている。放送のために作ったコンテンツから有料配信を行う場合には「分離会計」をしなくてはならず、業務上効率化できない部分がある。民放からは「民業圧迫」だと言われるが、合理化・健全化とどちらを優先するのか、そろそろちゃんと判断すべき時だ。
筆者の意見としては、「地上波放送に手を入れるなら10年・15年単位での時間を見据えるべき」「将来的なネットの『生活権化』を視野に入れるべき」ということになる。
NHKに手を入れるなら、「手を入れやすい場所」から進めた方がいい。本当に根本を変えるなら、それはそれでいい。その場合、「日本の放送と通信のグランドデザイン」まで見据える必要がある。それこそ、政治家に求められる仕事ではないか。「通信費を安く」だけでは済まない。その覚悟は、今の政府にあるのだろうか。