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 電波は国が管理する不動産に似ている。全体で使える範囲が決まっていて、それをルールにしたがって分割して使う。使う周波数の幅を「周波数帯」といい、その幅=帯域が広いほど、送れる情報の量が多くなる。そして一般的に、周波数帯が「低い」方が遠くまで届きやすい。

 広くあまねく伝える必要がある、ラジオやテレビなどの「放送」は、現状、携帯電話よりも低い周波数帯が使われている。携帯電話でも、地上波に近い周波数帯である「プラチナバンド」と、より高い周波数帯の両方が使われている。

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 だが、「Eテレを単純に止める」だけでは、携帯電話向けにリッチな通信ができるわけではない。

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 まず極論を言おう。テレビは確かに、全体で470MHzから806MHzまでという、広大な周波数帯を使っている。だが、1チャンネルが使っている帯域は実は狭い。1チャンネルが占有する帯域は5.57MHz。これは、現在大手携帯電話事業者が700MHz帯で使っている帯域の半分強に過ぎない。すでに述べたように、帯域の広さは送れる情報の量に比例する。すなわち、「あんまり速くない回線」になり、多くの人の需要を満たしづらい、と言うことである。

 プラチナバンドでつながりやすいことは重要だが、今はつながりやすさと同様に「データ転送速度」も重要だ。特に5G以降では、いかに色々な周波数帯を使って広い帯域を確保し、快適な通信速度を実現するかが重要。今すぐだと、Eテレ1チャンネル分の狭い帯域を与えられても高いお金を出す事業者は出ないだろう。

5Gをいかしきるには「セオリー」がある

 ただし、すでに述べたようにこれは「極論」だ。

 実際にやるとしたら、単純に空いたEテレのチャンネルだけを使う、などということはしないだろう。地上波テレビ放送が使うUHF帯(極超短波帯)と呼ばれる300MHz以上の周波数帯では、「ホワイトスペース」と呼ばれる電波干渉を防ぐ領域も広くとられている。簡単に言えば、道路の分離帯みたいなものだ。確かに、そこを含めてテレビが使う周波数帯をすべて再編すると、それなりに広い帯域を確保することが可能になる。その転用なら価値が生まれそうだ。

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 しかしその場合、放送に関する大規模な再編計画が必須になる。各放送局ネットワークでの対応を含め、相応の時間とコストが必要なのは間違いない。携帯電話に使う周波数帯利用について、国際的な調停も必要になる。消費者が使う端末の買い替えも必要になる可能性が高い。

 5Gは確かにエリアが狭く、高い(3GHz以上)の周波数帯では電波が届きにくい。だが、技術進化により複数周波数帯を活用する方策や、基地局整備の効率化など、色々な方法論が生まれている。現在4Gに使っている周波数帯の一部を転用する技術も生まれ、エリアカバー問題もある程度の方向性が見えてきた。