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「さあ、食おう。口に合うか?」

「ありがとう。……っていうか、この魚と菜っ葉、めちゃくちゃ美味くないか?」

「魚は釣った。日本の魚はベトナムと比べるとイマイチだが仕方ないな。菜っ葉は、そこらへんに生えてる草を唐辛子で和えた」

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ニワトリ(1羽350円)以外はほぼ原材料費がかかっていない兄貴ハウスの晩餐。意外と美味いのだ。

 群馬の兄貴の仲間たちの晩餐は、食料調達に出た男たちが近所のため池で釣った魚の唐揚げと、道端の草の唐辛子あえ、さらに埼玉県のベトナム寺院が困窮した同胞に支援しているコメのメシ、そして蒸し鶏だ。

「兄貴キッチン」にあふれる冷凍ニワトリ

 蒸し鶏は一羽をまるごと蒸し、男性が巨大な中華包丁で骨ごと叩き切ったものである。先日、彼らが群馬県警の家宅捜索を受けた際、冷凍のニワトリ約30羽が発見されたニュースを思い出した。

「日本の警察は、私たちがニワトリを丸ごと食べることを知らないから、養鶏場から盗んだものだと勘違いした。でも、うちのニワトリは、普通に店で買ってるんだよ」

 そう話す29歳の女性から台所に案内された。彼女が「見なよ」と業務用の上開き冷凍庫を開けてみせると、内部には冷凍ニワトリがぎっしりと詰まっている。

本邦初公開、「兄貴キッチン」。強制捜査があったせいか片付いている。左のタイル状のシートの下に業務用冷凍庫があり、大量の冷凍ニワトリが入っている。

「これ、太田市内のタイ物産店で、3羽1000円で買える。うちは大所帯だからたくさん冷凍して保存してるだけ。豚の肉も、過去にフェイスブック経由で買ったことはあるけど、盗んだことはない。普段は埼玉県本庄市にある食肉工場直営の肉屋で買うことが多い」

 彼女の話に嘘はなさそうだ(事実、これらの店は私が翌日取材に行くといずれも実在した)。ヴァンも言う。

後日に取材した太田市内のタイ物産店。冷凍ニワトリ1羽350円、3羽で1000円という超特価だ。なお、この写真はおそらくアヒルである。

「俺たちが豚泥棒なんて冗談じゃないよ。確かに、技能実習先から逃げて不法滞在や不法就労状態なのは確かだ。まだ警察に捕まってる仲間が、偽造の外国人登録証を持ってたのも確かだ。それに、俺たちが日本で運転するときは、みんな無免許運転だ。確かにその通りだが、豚泥棒については本当にやっていないんだ」