兄貴ハウスの専有面積は1棟60~70平米ほどで、間取りは3DKである。家賃は1棟あたり月3~4万円、光熱費を加えた金額を居住人数で頭割りする。住む人間が増えるほど金銭的に楽になる仕組みだ。事実、ヴァンは言う。
「2~3ヶ月前、フェイスブック上の(ベトナム人逃亡技能実習生の)コミュニティで、群馬で同胞たちがシェアハウスをやってるって投稿を見つけた。それで、この家に来たんだ」
コロナ禍で急増したハウス住民たち
この貸家は逃亡技能実習生たちの隠れ家だったのだ。もっとも、実際に上がりこんで観察する限り、「快適」な住居とは決して言えない。古い日本住宅に特有の饐(す)えた臭いと、獣の内臓と米の臭い。さらにベトナム人労働者たちの体臭や煙草臭やアンモニア臭が混じった独特の臭気が、マスク越しですら私の鼻孔に飛び込んできた。
なお、貸家の大家(日本人、73歳)は近所で暮らしている。彼の話によると、4~5年前に貸家の賃貸契約を結んだ相手は流暢な日本語を話す在日ベトナム人の会社員で、しっかりした人物に見えた(当然、「群馬の兄貴」とは別の人物だ)。やがて、数人のベトナム人の若者たちが生活しはじめたという。
だが、コロナ禍の前後から大家も知らぬうちに居住者が急増。家宅捜索がおこなわれた2020年10月時点では、20~30代のベトナム人男女が19人も集まり暮らすようになっていた。
──私たちとヴァンは、それなりに仲良くなれた。しかし、アポ無しの突撃で1回会っただけでは聞けない話もあるし、なにより他の仲間にも会ってみたい。そこで翌日、私は再び兄貴ハウスを訪問してみることにした。
外国人が多い街だけに、太田駅前のドン・キホーテは外国食材が充実している。私は同店で冷凍アヒル1羽と冷凍のライギョ1匹、さらに米と缶ビールと煙草をたっぷり買い込んだ。これだけお土産を持っていけば、他のベトナム人たちからもそう邪険には扱われないだろう。
夕食は“ため池で釣った魚”に“道端の草”
「おう、また来たのか? ……せっかくだし上がっていけよ。夕飯を食っていけ」
11月14日夜、アヒルとライギョを手に兄貴ハウスを訪ねた私たちは、ヴァンから快く迎え入れられた。屋内ではちょうど夕食の準備中で、隣の棟の住人も合わせて男女10人近くが集まっていた。当然、全員が逃亡技能実習生の不法滞在者であり、日本語はほぼできない。以前の職場について尋ねてみると「月給8万円」「建設現場きつい」「殴られた」といった話が口々に飛び出した。
スキンヘッドの男が3人ほど混じっており威圧感を覚えたが、後に聞いたところ、いずれも10月26日に一斉逮捕されて数日前に保釈されたばかりだった。勾留中はシャワーを5日に1回しか浴びられず、蒸れるので髪を剃ったらしい。他の男女はヴァンを含めて、粗末な身なりをした普通のベトナム人の若者である。そんな彼らと夕食を囲んだ。