起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。
もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第39回)。
原価3万円の布団を25万円、30万円で売りつけて
松永太が緒方純子に意図的に近づき、ついには彼女を実家から出させて、父・孝さん(仮名)の戸籍から分籍するという“謀略”を実行するのと時を同じくして、松永は自身の布団訪問販売会社『ワールド』での詐欺的な商法を続けていた。
なにしろ福岡県三潴郡大木町にある布団製造会社から購入した原価3万円ほどの布団を、シングル用で25万円、ダブル用は30万円で売りつけていたのだ。その利幅は大きく、当初は月に1000万円以上の売り上げを手にしていたという。
だが、従業員が友人や知人に泣きついて、無理やりローンを組ませて布団を販売するという強引な手法には限界があった。その結果、1984年頃からワールドの経営が傾いていたことはすでに記した。
常に新しい従業員を補填
後の松永と緒方の福岡地裁小倉支部での公判(以下、公判)でも、検察側によって以下の状況が明らかにされている。
〈松永は、販売実績が上がらなくなると、従業員らをして、その親戚や知人等に頼み込み、実際には布団を販売していないのに、その名義を借りて信販契約を締結させたり(以下、「名義貸契約」という。)、架空人名義で信販契約を締結させたり(以下、「架空人名義契約」という。)して売上を仮装した上、信販会社に対しては、従業員に自己又は親戚や知人名義で多額の借金をさせるなどして金を工面させ、ローン又は立替金の支払いをさせるようになった〉
そうした行為を継続させるためには、常に新しい従業員を補填する必要があった。ワールドには当初、松永の高校時代の同級生だった日渡恵一さん(仮名)と坂田昇さん(仮名)という従業員がいたが、彼らの後輩や知人をあらゆる手段で引き込んだのである。その手法についても公判では触れられている。
〈松永は日渡の依頼により名義貸契約の保証人となった武田浩二(仮名)、日渡の依頼により信販契約を締結した後にクーリングオフで解約した野間二郎(仮名)、野間の依頼により名義貸契約を締結した山形康介(仮名)らに対し、同人らの行為により会社が損害を被ったなどと因縁を付け、同人らをワールドの事務所などに寝泊まりさせて従業員として稼働させ、布団を親戚や知人に売り付けさせたり、名義貸契約や架空人名義契約を締結させるなどした〉