中でも、東北大学の歯学研究科で国際保健の担当をしていた小坂健先生は、ウイルスの生存に関してデータを集めていて、YouTubeでCOVID―19の講座をやっているくらいだったんですよね。おまけに元FETPで、実地疫学のプロでもある。そんな小坂先生に「コロナウイルスは湿度が高くなったら早く死ぬぞ。もわっとしていたら逆じゃないか」というふうなことを言われました。
また、昨年まで感染症疫学センター第一室でFETPの統括をしていた松井珠乃先生も感染の現場に出ていて、現場の感覚としては「もわっとしている」は共通項とは言い切れないというんです。そんなふうにみなさんに聞いていって、最終的に「閉め切った空間(Closed environment)」をまずは集中して見ていくことにしました。
大切だった「行かなかった場所」情報
小林君に頼んでいたのは、狭い空間で換気の悪い所にいる人と、そういう場所に明確に行っていなかった人とを、二次感染の多さに関して比較できるようなデータがほしいということです。
その時点での感染者は、日本全国でまだ100人少々でしたけど、その人たちについて調べたデータは、すごくフォローアップが良くされているんです。誰がどこに行ったという行動だけでなく、「行かなかった」というネガティブデータがある。
人数が増えてくると、誰がどこでクラスターを起こしたかという情報は取っても、「行かなかった」というところまで聞き取らなくなっていきます。でも、FF100についてお話ししたように、流行の最初のころはかなり頑張って詳しく調べているんです。
まずは、実際に1人当たりが生み出している二次感染者数の分布を描いてみて、いわれていた通り、ほとんどの人たちは二次感染を0人とか1人しか起こさないのに、右の裾野の方にたくさん感染させている人がいることを確認しました。
クラスター対策班誕生3日でわかったこと
じゃあ、閉め切った空間 “Closed environment” にいた人でたくさん二次感染を生んだ人と、そうでなかった人、閉め切った空間に行かなかった人でたくさん二次感染を生んだ人と、そうでなかった人の数が分かれば、Two by two table、2×2表を埋めることができて、そこから閉め切った空間ではどれくらい二次感染が起きやすいかを推定できるんです。
これはオッズ比という指標で出てくるのですが、閉め切った空間では、20倍近く二次感染が起こりやすい、という結果でした(【図6】)。
これは査読を経ない状態で発表できるプレプリントサーバにすぐに論文を上げておいたんですが、その直前のドラフトまで僕は「湿度の高い空間」と書いていました。それが、必ずしも湿度ではなくて、共通項として取っておくべきは「換気の悪い密閉された空間」なんだというのが、クラスター対策班が始まって3日くらいに分かってきたことです。