「3密」の誕生
そんなふうに分析が進み、環境要因を見るのが相当大事そうであるということになりました。これは幸運なことです。というのも、二次感染の要因が環境ではなく、ヒトやウイルス自体のこともありえますから。
そこですぐにメンバーたちが作ってくれたのが、啓発ポスターです。最初のものは国際医療福祉大学教授の和田耕治先生が主導して、「新型コロナをいま、拡げないために」のような、本当に単純な行動啓発でした。「閉鎖空間で食事会をしない」と大きく書いてあって、小さい字で「換気が少ない室内」「手を伸ばせば触れる距離」「一定時間、話す」とかの条件を示しています。そして、「行動パターンを見直そう」と呼びかけています。
このポスターを作っていく過程もNHKに取材してもらい、広くアナウンスしていこうということになりました。メールの日付などを確認すると、2月28日にこの最初のポスターができているので、僕がマニラから帰ってきて3日目にここまでいっていますね。
この時点では、まだ「3密」という言葉はありませんでした。最初のポスターに書いた「換気が少ない室内」「手を伸ばせば触れる距離」から、専門家会議に参加している医療社会学やリスクコミュニケーションの専門家の武藤香織先生(東京大学医科学研究所・教授)や尾身先生にも手伝ってもらって、厚労省から「換気が悪く」「人が密に集まって過ごすような空間」「不特定多数の人が接触するおそれが高い場所」を避ける呼びかけをしてもらいました。
「密」は官邸の官僚が作ったキーワードだった
さらにそこから、官邸の首相補佐官付の官僚が、「密閉」(換気の悪い密閉空間)、「密集」(多数が集まる密集場所)、「密接」(間近で会話や発声をする密接場面)という「三つの密」というような巧みな言葉を作って、3月半ば以降使われるようになりました。初めて聞いた時、さすがだなと思いましたよ。「密接」という言葉など、普通は考えつきません。というわけで、政治家が「三つの密が―」と言えるような状況を作ったのは、官邸の官僚だったんです。
ただ、まあ、官邸の動きが制御困難だったり予測困難で困らせられたこともたくさんありました。たとえば、はっきりとした証拠がないのに、誰かのFacebookの投稿を見ただけで、「使いまわしのトングが危険」だと、広く呼びかける言葉をポスターの記載に加えようとしたりして、困惑させられる、などです。