新型コロナウイルスに世界が揺れた2020年。日本に訪れた「第一波」に対し、最前線で立ち向かった厚生労働省クラスター対策班の一員・西浦博氏が当時を語った『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』(聞き手:川端裕人、中央公論新社刊)が、大きな反響を呼んでいる。

 その中から、日本で生まれ、その後、世界にも広まっていった「3密」概念の誕生について、抜粋して引用する。

西浦博氏(左から2人目) ©️時事通信社

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もわっとしている? 閉め切った空間?

 僕がジョンズ・ホプキンス大学の論文で興奮していたのは、押谷先生と僕たちが議論していたようなこと、つまり、二次感染がとても多いようなところを選択的に選んで、そこを攻撃していけば流行を制御することができるかもしれないということを匂わせていたからなんです。こういう論文がありましたよと押谷先生などに共有し、日本でも考えていかないといけないですね、という話をしました。

 クラスター対策班が始動すると、すぐに小林君に言って、情報を集めてもらいました。クラスターは室内の換気の悪い、もわっとしている所で発生していない? と僕はずっと言っていました。雪まつりの休憩所がたしかそうだし、船上でパーティしている時は閉め切ってお鍋をしていたんですよね。「もわっとしている」というのは「湿度が高い」というようなイメージです。

©️iStock.com

 閉め切った場所というのは少なくとも共通していて、フィットネスクラブの中は明らかにそうですし、武漢からの観光客を乗せたバスのドライバーが感染していた事例もありましたよね。そんな事例がどんどん集まってきていたところでした。

クラスター対策班の“良さ”

 クラスター対策班がいいなあと思うのは、研究者でできている組織なので、思いついたことをいつもの研究アイデア交換のように、すぐに誰かに聞けるんですよ。自分はこういうことを今考えていて、研究のアイデアとしてはこうなんだけど、どう思う? って、昼ご飯を食べる時でも、お茶を飲む時でも、共有してフィードバックをもらいやすいんです。日本の研究者はあまりそういうことをしないそうですが、僕はよくやるんです。

 それで、「もわっとしてるんじゃないですかね」「閉め切ってますよね」とか聞いたところ、「そんなのは偶然だよ」から「そんなのは当たり前だよ」みたいな返し方も含めて、いろんな反応がありました。