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「心の息の根は止まったまま」反響を呼んだ橋本愛のコメント

 小泉今日子は『ソワレ』が公開された今年の夏、8月2日号の『サンデー毎日』で、橋本愛について言及している。それは「ミニシアター・エイド」として、コロナ禍で苦境に陥るミニシアターへの寄付を呼びかけた俳優たちの中の一人、YouTubeでの橋本愛のコメントだった。


「私は昔、映画に命を助けてもらいました。身体こそ生きてはいましたが、心の息の根は止まったまま。何を食べても、誰と会っても、どうにもなりませんでした」という、息を呑むような告白から始まる2分50秒のコメントは、ここにすべてを書き写すにはスペースが足りないが、今もYouTubeで見ることができる。その動画はSNS上で大きな反響を呼び、支援への呼び水となった。

 橋本愛がインスタグラムを中心に配信するライブやファンとの応答には、フェミニズムに通じる激しい社会への違和感と、その社会に傷つく人々に対する繊細な優しさが混在している。

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『ソワレ』は確かに「100人のうちたった1人を救える作品」だった

 同じようにミニシアター支援に参加していた小泉今日子は、その動画について「自分にとってもそんな映画はあった、100人のうちたった1人を救える作品もある」とインタビューで語る。配給停止が相次ぎ、海外からも新作が止まる中、ミニシアターを中心に公開された『ソワレ』は確かにそういう作品になっていた。

 日本最大手の芸能事務所での安定を捨て、作り手として独立して作品を送り出し始めた小泉今日子は今、自分の作り出す作品で社会と戦う意志を固めているように見える。『食べる女』で女優として演じた当たり前の暮らしを取り戻すための戦い、貧困と格差、そして新たな感染症によって自分たちの世代よりはるかに困難になってしまった、能年玲奈と橋本愛の世代のための戦いに。

「あまちゃん」当時の能年。左は母親役の小泉今日子、右は祖母役の宮本信子

 かつて小泉今日子と同じ天野春子の少女時代を演じ、今はトップ女優となった有村架純が、インタビューの中で「コロナ禍における恐慌と、過去に資源を求めて起きた戦争の歴史」について語ったように、『あまちゃん』で3・11に至る現代を演じたキャストたちは、2020年の今も激しく動く歴史の中にいる。