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――オーディションの内容は覚えていらっしゃいますか?

島本 脚本か原作本だったかな。どちらかは忘れましたけど、「ここの場面をやってみてください」と指示されてナウシカのセリフを言いましたね。私たちがアフレコの現場でお話しするスタッフさんは、基本的に録音監督さんくらいなんです。オーディションも同じで録音監督さんだけに会って、声をテープに録ってもらって、それを監督さんやプロデューサーさんが聞いて役に合っているかどうかを検討してもらうシステムになっているんです。

 だから、その場で即決みたいな話ではないんですよね。で、その年か次の年になってからかは忘れましたけど、とにかく冬にナウシカ役が決まりました。

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監督の第一印象は「意外と清潔な感じ」

――公開時に発売されたムック本「風の谷のナウシカ GUIDE BOOK」(徳間書店)で、島本さんがアフレコに先立ってスタジオ“トップクラフト”で『ナウシカ』制作中の宮崎監督を訪ねて話をされている訪問記が載っています。そこに《この日が初対面だった宮崎監督と島本さん》とあったのですが、さすがにそれはないですよね。

島本 そう、嘘ですね(笑)。すでに『カリオストロ』で会っていますから。でも、その時は録音監督としかやりとりをしていないので、宮崎さんとは顔をお見掛けした程度で会話はしていないんですよ。なので、お話をしたという意味では初めてでした。

 

――その訪問記では《ヒゲがモジャモジャとしていてちょっと薄ぎたない感じの、あまり見かけにかまわない方だろうと想像していたんです。ところが、清潔な感じがする方でした。それにかわいい感じもしました(笑)》と、宮崎監督についてお話しされています(※1)。まだ当時は、これほどまでの世界的巨匠になるとは想像もつかない感じだったのでしょうか?

島本 あの頃も名監督として評価はされていたけど、こんなにすごい方になるとは誰も分からないですよね。訪問した時は絵を作ってらっしゃる段階で、「王蟲はこうやって動くんだよ」なんていろいろ見せてもらったりして。アニメの制作現場は初めてだったので、すべてが新鮮でしたね。いまはCGも入っているから、それはそれでまた凄いんでしょうけど。

 

※1……現在「ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ」(文春ジブリ文庫)に再構成して収録された訪問記では、このコメントは未掲載。

「瘴気用マスク」をいかに表現するかで四苦八苦

――そしてアフレコに入るわけですが、なにか苦労したシーンはありましたか?

島本 私自身が苦労したわけではないんですけど、ナウシカたちは瘴気用マスクをしているじゃないですか。その声をどういうふうに表現するかって、いろいろと考えたんですよね。紙コップの底に穴を開けて、穴の形は丸がいいか、三角がいいか、四角がいいか、底をすべて抜いたほうがいいかって、さまざまなパターンの紙コップ製のマスクが現場に用意してあったんです。

 それらを一つ一つかけてセリフを喋って、絵と合うかどうか観ながら決めていく作業が最初にありました。そこは苦労したし、印象に残っていますね。

『風の谷のナウシカ』より

――マスクをしていると、しゃべりにくいとか自分の声を把握しにくいといった問題が生じそうですね。

島本 いまはコロナで皆さんマスクをしていますけど、ズレてしまわないように口を大きく動かさないでしゃべるじゃないですか。だんだんと口が開かないしゃべり方になってしまうんですよ。それに似ていて、紙コップを輪ゴムで留めたマスクもそんな状態になるので、しゃべりにくくなっちゃう。