――『ナウシカ』公開後に刊行されたエッセイ「島本須美 これからの私」(徳間書店)で宮崎監督と対談されていますが、たしかに飄々としていますね。
島本 対談場所が、長野県の信濃境にある宮崎さんのお義父さんの別荘かなにかだったんですよ。そこへ私と女性のスタッフ、「アニメージュ」の編集部にいた頃の鈴木敏夫さんの3人でお邪魔して。そうしたら宮崎さんは、私たち3人が泊まっていくものだと思っていたみたいで、朝早くからせっせと人数分のお布団を干したり、ご飯を用意してくれていたみたいで。一生懸命にお布団を干している姿を想像したら、可愛くなってしまいましたね(笑)。
でも、私ともうひとりの女性は、取材を終えたら帰らなきゃいけないスケジュールだったのでとっとと帰っちゃったんです。ご飯も布団も用意してくれたのに、ものすごく申し訳なくて。たぶん、鈴木さんはそのまま泊まっていったんじゃないかな。
リンクする『ナウシカ』とコロナ禍の世界
――アフレコで苦労した瘴気用マスクを筆頭に、『ナウシカ』の世界観が現在のコロナ禍と重なるという声が多く上がっていますが島本さんもお感じになりますか?
島本 昨年の暮れ、尾上菊之助さんがおやりになった歌舞伎版『ナウシカ』を観させていただいたんですね。アニメのほうは原作の第2巻の途中までしか描いていないんですけど、歌舞伎版は全7巻すべてを描いているんです。それを観て、さらに原作を改めて読み直して、いろいろと提示されているテーマについて考えていたら本当にマスクをしなければいけない世界が到来してしまって……。
『ナウシカ』の原作を通してコロナ禍の現在を見つめていく『コロナ新時代への提言2』という番組が8月にNHKのBS1で放送されて、そのナレーションをやらせてもらったんです。それもあって、本当に考え込んじゃいましたね。
――だからこそ、第2巻の後半以降をアニメ化してほしいですね。鈴木敏夫さんは、庵野秀明監督にお願いしたいと考えていた時期があったと公言していますが。
島本 庵野監督が続編を作るんだったら、絶対に呼んでほしいなと思うけど、さすがにキャストは若い人たちで総入れ替えされちゃうかな。作ってほしいな、私で(笑)。
【#2を読む】セリフのリテイクを20回も…「ジブリに愛された声優」が語る“『もののけ姫』で一番苦労したこと”
写真=鈴木七絵/文藝春秋
【参考文献】
▽「映画 風の谷のナウシカ GUIDE BOOK 復刻版」徳間書店 2010年
▽「島本須美 これからの私」徳間書店 1984年
▽責任編集・養老孟司「キネ旬ムック フィルムメーカーズ 宮崎駿」キネマ旬報社 1999年
▽浦谷年良「『もののけ姫』はこうして生まれた。」徳間書店 1998年
ワーナーミュージックより、島本須美さんのアルバム『sings ジブリ リニューアル ピアノ バージョン』が発売中。