そして声がしてきたんです。
「あなた」「パパ」「熱いよ、助けて、助けてーーーーー、熱いーーーーー」
私は思わず目を閉じようとしました。しかし、閉じることができないのです。瞼すらも金縛りになっていたのです。
* * *
徳山さんは、鬼気迫る表情でお話ししてくださいました。そして話し終えると、私にすがるように感想を求めてこられました。
私は、恐らく心霊スポットにおられた母子が、徳山さんに助けを求めてこられたのではないでしょうかと、見解を述べました。
「三木住職、そんなはずないんです」
すると徳山さんは意外なことをおっしゃいました。
「三木住職、そんなはずないんです。だってこの話は嘘の怪談話なんですから」
徳山さんはそう言うと、帰って行かれました。
何故かと問われると答えに困るのですが、私には、この話の全てが嘘だとは思えませんでした。もしかすると、火事のあったとされる家の番地やその時の様子が、やけにリアルに感じられたからかも知れません。
そこで私は、実際にお聞きした火事の現場を調べることにしました。
すると私の予想通り、そこには実際に火事で焼けた家があったのです。しかも、当時のニュースを調べると、その火事では、母子が家に取り残されて亡くなっておられました。
その母子の名字は、徳山さんでした。
ここからは私の想像でしかないのですが、火事の時に逃げ出してしまった父親が、今回お話しに来られた徳山さんご本人だったのかも知れません。
自分の弱さや罪を感じて、真実を告白しようとして、ギリギリでこの話は嘘だと逃げてしまわれたのかも知れません。
人間は失敗をすることがあります。時には罪を犯してしまうこともあるでしょう。過去は変えられませんから、そうなってしまったら仕方がないと思います。
ですが、どんなに大きな失敗や罪を犯したとしても、決して嫌な人間にはなってはいけない。そう私は思うのです。